第3話:敵か味方か
私は覚悟を決めて正直に話しました。
家を出た時から、最悪の場合は自害しようと覚悟を決めていました。
悪意があるのなら、実家を恐れる必要がなくなり直ぐに襲ってくるでしょうから、早く楽になることができます。
この男が単に興味本位で揶揄っているだけなら、直ぐに解放してくれるでしょう。
「あちゃぁ、マカリ伯爵はそこまで愚かだったのか、こりゃどうにもならんな。
伯爵家の後ろ盾がないのなら、絶対に下町にはいかせられないし……」
困った事に、男が全く考えていなかった反応をしました。
私は襲ってくるか立ち去るかだと思ったのですが、どうなっているのでしょうか。
そんな風に私も考えて立ち止まっていると、馬車が後ろからやってきました。
家紋などの装飾が全くない、悪事に使うためとしか思えない真っ黒な馬車です。
私は急いで道の外側にある森に逃げ込みました。
「ここで女をからかっていたのがお前の不幸だ、死ね」
後ろで私に話しかけていた男が襲われる言葉が耳に入ってきました。
正義の味方なら助けに戻るのでしょうが、私は正義の味方ではありません。
私は弱者、獲物の立場だと分かっています。
襲ってきた男はコセールかムハメドフの手先です。
人目から隠す馬車を使ってきたという事は、私を誘拐する心算です。
その後どうなるかは考えたくもありません。
「ウギャアアアアアア」
「ヒッイイイイイイ」
「グッハッア!」
明らかな断末魔が聞こえてきます。
あまりの恐ろしさに必死で森の奥に逃げ込みました。
肉食の獣は怖いですが、人間よりはましです。
獣に喰い殺されることになっても、それは肉体の痛みしか与えません。
あの男達に捕まったら、心までズタズタにされてしまいます。
「おおおおい、お嬢さんよ、敵は全員殺したから、安心して出てきな。
伯爵家を追放されたのなら、安全な隠れ家を教えてやるよ。
お嬢さんも知っている場所だから、何の心配もないよ。
どうしても不安なら、こいつらが持っていた短剣を渡しておくよ。
それがあればいつでも自害できるだろう。
おおおおい、きこえているかぁあ、お嬢さんよぉお」
襲われていた男が大声で呼びかけてくれます。
コセールかムハメドフの手先、荒事が本職の連中をたった一人で全滅させたのですから、ただ者ではありません。
それに、自己紹介していない私が伯爵令嬢だと知っているようです。
本当に何者なんでしょうか?
普通に考えれば、マカリ伯爵家を探っていた密偵でしょうが、愚かな父によって没落の瀬戸際にあるマカリ伯爵家を、探るような貴族がいるとも思えません。
それとも落ち目のマカリ伯爵家を乗っ取るために調べているのでしょうか。
果たしてあの男は敵なのでしょうか味方なのでしょうか。
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