第19話 瀬戸美月 帰る

ワイナリーへドライブに行った次の日、美月と健司は買ってきた御土産について誰に渡すか話していた。

その時、美月のスマホにメッセージが入った。

「あ、ちょうどお母さんからです」

と言って美月はスマホを見た。

直後に、硬直する美月。そして、真っ青な顔で言った。

「わ・・・私、今すぐに実家に帰ります!!」


そして健司にメッセージを見せた。










『今から、美月ちゃんの本を全部健司さんのところに送ろうと思うんだけど。いつなら受け取れるかしら?』




美月の実家の部屋にある壁面いっぱいの本棚に詰まっていた漫画。

そんな量の本を置くスペースは・・・健司の部屋にはない!


あわてて車に飛び乗るようにして美月の実家に向かう二人。

もちろん、お土産を持つのは忘れなかった。

いざとなったら・・・


ーーーー


「あらあら、急に帰ってきてどうしたの?」

「どうしたのじゃないわよお母さん!本を送るって・・・」

すると、ダンボールの束が美月の目に入ってきた。



この人・・・本気だ・・・



幸い、健司さんは今は駐車場を探しているところ。最寄りのコインパーキングは満車だったのだ。

このすきに母親を説得しよう。

「おかあさん、お願いだから本を送るのは勘弁して。

 健司さんの部屋にスペースないから・・」

「ええ・・じゃあ、処分すればいいじゃない」

さらっと爆弾発言する。

美月は涙目になって、母親にすがった・・・

「そ、、それも勘弁してください・・」

「あらぁ・・でも、いつまでも美月の部屋をそのままにしておくのもねえ・・」

「え・・どうして?」

「だって、健司さんと結婚したらそちらに荷物を持っていくのは当然でしょう?」


まだ、結婚していない。


「お母さん・・まだ結婚してないから。だから、まだ私の部屋をそのままにしておいて・・」

「あら・・、遅かれ早かれって話じゃないのかしら?」


美月は助けを求めて、父親と妹に目を向けた。

すると二人とも、すっ・・・と目をそらした。


この家には味方はいないの!?


ピンポーン!


その時、玄関のチャイムが鳴った。


「はあい」

母親は、玄関にいってしまう。


「あらあら、健司さんまでどうしたの?」

早乙女健司がやってきた。


リビングに入ってくるさくらと健司。

「こんにちわ、ご無沙汰してまして申し訳ありません」

家族に挨拶する健司。


”うう・・・健司さん、なんとかしてください”

健司にアイコンタクトをする美月。


えぇ・・・

といった表情の健司。


すると、さくらが健司に切り出した。

「そうそう、美月ちゃんの荷物を健司さんのお家に送ろうと思うんだけど、いつなら受け取れるかしら?」


送る量とか内容は一切触れずに言う。嘘は言っていない。

狸である。


すると、健司が切り返した。

「あ・・その前に。昨日、美月さんが免許をとった記念にドライブに行きまして。

 お土産を持ってきたんです」

「あらあら、わざわざすみませんね」

ニッコリと笑うさくら。

現金である。


すると、健司がかばんからワインの箱を取り出す。


「このワインは、国際線のファーストクラスで出される国内最高級のワインになります。

 今のところ、国産ワインでこのワイン以上の値段がするものはないほどの貴重なワインです」


頭を下げながら、テーブルの上に両手で、すっ・・と差し出す。

そして言った。


「何卒・・・これで、よしなに・・」


まるで、時代劇に出てくるお代官さまと商人。


さくらは、それを受け取りながら。

「あらあら、そんなものをもらっちゃうと、流石に・・ねえ・・」

”お主も悪よのう・・・”

暗にそう言っているようである。




これにて、とりあえずはピンチを回避できたのであった。



ーーーー


帰りの車の中・・

「うぅ・・疲れました・・」

「ふう。なんとかなりましたね」

二人ともぐったりと疲れていた。


「なんか、飲みたい気分です・・・」

「そうですね・・こんな日は二人で飲みに行きましょうか?」

「そうしましょう。一緒に外に飲みに行くのは久しぶりですし」

一旦、家に帰り車をおいてから飲みに行くことにしたのであった。



美月は思った。

”これから、本を増やすのは程々にしよう・・”

健司は思った。

”一人で飲みに行かないでも、美月を誘って飲みに行けばいいか・・”


二人とも、一緒に住むことに慣れようと思うのであった。

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