第16話 瀬戸美月 洗濯をする

「ブラジャーの洗濯って洗濯機じゃなくて手洗いでするんですか?」

と美月が健司に聞いた。










間違いでないことを示すためにもう一度記載する。


健司は、それを聞いて唖然とした。


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金曜日の夜。

明日は、ドライブがてらワイナリーに行くことにしていた。

瀬戸美月は早乙女健司にしばらく泊まっている。


となると、金曜日にある程度は洗濯をしておいた方が良い。

夕食を食べているときに健司がそう話すと、美月が言った。

「では、私がやります!」

自信たっぷりである。

「ええと、大丈夫ですか?」

健司は何となく嫌な予感がした。

「全自動洗濯機ですよね?大丈夫ですよ」

ニコニコと笑って美月が言う。



もちろん、大丈夫ではない。

実家でも、美月は洗濯などしたことが無いのだ。



夕食の後、美月は洗濯機のある洗面所に向かった。

リビングから洗面所を健司は見つめる。

美月は、洗濯かごから洗濯機に服を入れ始めた。

洗濯ネットを使わずに。

健司のYシャツ・Gパンそして美月のブラウス・・・ニット・・


「ちょっ・・ちょっと待って!」


そこで健司は洗面所に行って、美月の行動を止めたのだった。


洗濯機の中には、健司の服と一緒に美月の服も入っていた。

それはいいのだが・・

一緒に入っている中には、シルクのブラウスや毛糸のニットも入っている。

そして・・・ブラジャーまで・・・


美月はキョトンとして、なぜ止められたのか分からないといった感じである。

「ええと・・」

健司は何から説明するべきか、困った。

「ニットやシルクのブラウスとかは、こっちの違う洗剤を使ったほうが良いので分けて洗ったほうが良いですよ」

とおしゃれ着専用の洗剤を示す。

「あと・・・ブラジャーは洗濯機じゃなくて手洗いしなくていいんですか?」


そして冒頭の発言となったのだ。



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さすがに、健司の年齢になるとブラジャーを見て慌てるなんてことはない。

ただ、ちょっと気恥ずかしい思いはある。


「ブラジャーはどうして手洗いじゃないとダメなんですか?」

「ええと・・ワイヤーが入ってるから洗濯機で洗うのはよくないんじゃないかな?

 あと、ホックが他の服をひっかけて痛めちゃいますよ」

「へえ、そうなんですか。


 え・・・ええ~?


「いつもはどうしてたんですか?」

「お母さんが一緒に洗ってくれていました」


 その発言で、健司は察した。


 その後、健司は美月に洗濯の仕方をレクチャーするのであった。

 洗濯ものは洗濯ネットを使うこと。

 特にYシャツなどはしわにならないように、畳んで入れること。

 ニットやシルクのブラウスなどは、クリーニングコースで専用の洗剤を使うこと。

 洗剤と柔軟剤の違い。

 などなど・・・


 美月は一生懸命聞いてくれた。

 だが・・どこまで理解してもらえたのかちょっと不安である。

 まぁ、これから少しずつ覚えてもらうことにしよう・・


 健司は思った。

”さくらさん・・・娘さんを甘やかしすぎですよ・・”

 まさか、瀬戸さくらが美月を健司と同居させたのは、家事を教えるのが面倒くさくなったんじゃないのかと疑念を覚えたのであった。


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 そのころ、美月家では美月菊夫と瀬戸さくらがリビングでお茶を飲みながら話していた。

「なぁ、本当に大丈夫か?美月になにか間違いがあったら・・」

「バカ言わないでよ、お父さん」

 さくらは、にこやかに答える。

「そ・・そうか・・?」


 本当に、バカなことを言わないでほしい。

 せっかく、無理やり同棲させたのだから・・・


 その時、さくらのスマホが振動した。

 先ほど、美月に”今は何しているのかしら?”と状況を聞いた返事が来たのだろう。

 スマホでメッセージを見る。

 確かに娘から返事は来ていたが、ちょっと期待していた内容とは異なっていた。


”今は、健司さんに洗濯の仕方を教えてもらってます!”


 もうちょっと色っぽい報告を期待していたが、これはこれでいい傾向だ。

 健司さんは料理が上手らしいし、一人暮らしだから家事もできるのだろう。

 家事を全くできない美月には、まさに理想の男性・・・


 これはなんとしても、結婚してもらわなきゃね。


 ふと、自分の旦那菊夫を見る。

 この人、家事も全くできないのよね・・・


 健司さん、結婚したらうちに同居してくれないかしら?

 さくらは、真剣に物騒なことを考え始めたのであった。

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