第15話 瀬戸美月 彼氏と同居する

母親のさくらが、リビングに入ると娘の美月がソファで膝を抱えてスマホを見ていた。

物凄く不機嫌なオーラを発している。

それに気づいていないのか、気づかないふりをしているのか、さくらは平然と美月に声をかけた。

「あら、免許取れたんでしょ?健司さんと一緒にお祝いするんじゃなかったの?健司さんは?」

すると美月は、ぶっきらぼうに答えた。

「出かけた・・」

「あらそう・・、ところでお父さんどこに行ったか知らない?」

「出かけた・・」

「あら、どこに?」

「健司さんと・・ドライブに・・」


そこで、さくらは美月が不機嫌な原因を理解した。

その時、さくらからも黒いオーラが立ち昇った。

”何やってるんだ菊夫さんあの大馬鹿は・・・”


その頃、健司は港近くの高速道路を走っていた。

助手席には、瀬戸菊夫を乗せている。

「うひゃあ、すごい加速だね、やっぱり!」

菊夫は、助手席ではしゃいでいた。

「健司くん。次はあっちの道に行こう。コーナリングを体感したいからね!カーブでギューッと!」

健司も車の運転は好きである。

だが・・隣ではしゃぐ菊夫を見ながら、瀬戸家に戻るのが怖くなっていた。



1時間弱ほどして、健司の車は瀬戸家のほうに向かっていた。

建物が見える・・門のところに2人立っている。

なぜか。遠目から見てもオーラが感じられる・・・


「あの・・健司君。もうしばらく回り道して帰らないかい・・・・?」

さっきまで、はしゃいていた菊夫が、ずいぶんか細い声で言う。

顔を見ると青ざめている。

「それは、(自分の身が危険だから)無理ですよ」

菊夫の願いもむなしく、健司は瀬戸家の前に車を止めた。

車を降りる、菊夫と健司。

そこには、母娘が二人で待っていた。

なぜか、傍らにはキャリーバッグとボストンバッグがおかれている。

さくらが話しかけてきた。

「健司さん、うちの菊夫さんが申し訳ありませんねぇ」

「いえ、そんな・・・」

何と答えたらいいものか・・・健司は焦っていた。

「菊夫さん、あとでたっぷり話しましょうか?」

「あ・・はい・・」

菊夫は、うなだれて答えた。


今度は美月が話しかけてきた。

「健司さん、荷物を入れるの手伝ってくれる?」

あくまでにこやかだ。

「あ・・あぁ・・」

キャリーバッグとボストンバッグ・・・大荷物である。

菊夫が聞いた。

「あの・・・美月?・・・いったい、その荷物は・・?」

「あら、お父さん。私、しばらく家を出ることにしたの。では、ごきげんよう」

とにこやかに笑って、助手席に乗ってしまった。


「じゃあ、健司さん。美月をよろしく頼むわね」

これまたにこやかに、さくらは健司にお辞儀する。

「さ・・菊夫さん。我々は家の中で二人で話し合いをしましょうか?」

というと、菊夫を引きずって家の中に入っていく。

引きずられていく菊夫の目は、健司に助けを求めるようにおびえた目をしていた。



あとに残された健司。車の横に立って呆然と立ちすくんでいた。




”え・・・?  えー?? 聞いてないよ!?”



こうして、瀬戸美月は健司の家で(しばらく?)一緒に住むことになった。

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