第14話 瀬戸美月 卒業検定に挑む

「健司さん。今日合格したらお祝いしてください!」

「あぁ、もちろんお祝いしないとね。お祝いに夕食は何がいい?」

「ええと、考えておきます!」


瀬戸美月は、恋人の早乙女健司の車の助手席に乗っている。

教習所まで、送って行ってもらってるのだ。


今日は卒業検定。

これに合格し、筆記試験を免許センターで受験し合格すれば晴れて免許を取得できるのだ。

思えば、美月にとって教習所は苦労の連続であった・・・(以下略)



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一方、健司にとっても苦労の連続であった。


今日、合格できたら祝勝会だ。

でも、不合格でも残念会となる。

どちらにしても、ご馳走を考えないといけない・・・これが問題であった。



なぜなら、このところの美月の要求するご馳走はすべて、健司の手料理を所望してくるのだ。

なぜかはわからない。料理する健司の横で、ずっと健司のことを観察している。


健司の知るレシピは家庭料理くらい。

豪華な料理を作るといっても、それほどレパートリーはない。



しかも美月を卒業検定のために教習所に送っていくのはこれで3回目である。



ご馳走のネタがそろそろ尽きている。

そろそろ合格してもらわないとまずい。


なんとか合格してくれ・・・切に願う早乙女であった。



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健司は、美月の卒業検定が終わるのを教習所の待合室で待っている。


ちなみに、教習所にいる周りの生徒たちは

”え?あの男・・あの美人のなんなんだよ?”

”親ではないだろう、から兄妹?”

”まさかの恋人?  まさかね、年齢が違いすぎる”

などと噂しあっていた。


もちろん、健司の耳にも聞こえてきている。

正直、健司にとっていつも居心地の悪い空間であった。


美月が路上教習を不合格になったり、検定を不合格になったり。

本来の既定の回数を大幅に超えて教習所に来ている。

そのたびに、居心地の悪い思いをしてきた。

これまた苦行であった。




「やった!やりましたよ。ついに合格です!」

「おめでとう!美月。頑張ったね!」

「これで、教習所を卒業です!」


教習所の待合室で待っていた健司のもとに、美月は満面の笑みでやってきた。



健司は、ほっとした。

ようやくこれで、ここともおさらばできる。

心底、美月が合格したことを喜んだのであった。




なお、免許センターでの筆記試験。

これまた複数回、受験することになるのはこの時の健司には知る由もなかった。

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