第10話 閑話 男同士 女同士 (一部修正)
「あぁ!健司くん、こっちこっち」
横浜駅にほど近い居酒屋。健司は、そこに呼び出された。
「こんばんわ、本日はお誘いいただきありがとうございます。」
「まぁ、堅苦しいことはいいから。」
呼び出した相手は、瀬戸 菊夫。
美月の、父親だ。
交際相手の父親と二人だけで会っている。緊張しないはずがない。
「まずはビールでいいかな?おーい、店員さん」
すぐにビールがやってきた。
「それでは、乾杯!」
「いただきます」
ビールで乾杯する。
「それで、美月との交際はどうなんだ?」
どう答えるのが正解なのだろう?
「はい、楽しく交際させていただいています。」
「それなら良かった、まぁ美月を悲しませることは許さんがな。ぎゃはは」
菊夫さんは、飲むとすぐに赤くなるようだ。あまり強くはないらしい。
その後、美月のことや車のことで話が盛り上がった。
菊夫は、早乙女健司という男が意外と気に入っていた。
娘の交際相手。フリーターだったらどうしようとか悩んだ時期もあった。
しかし、実際に来たのは一流企業に務める男性。
娘の交際相手にしては年齢がかなり上であることが気になったが、すぐにそんなことは気にならなくなった。
なにしろ、話していてジェネレーションギャップがほとんど無いのがいい。
菊夫には、もう一つ健司を気に入った理由がある。
瀬戸家は菊夫以外は全員女性。
そのせいで結構肩身の狭い思いをしてきた。
無意識のうちに、菊夫は
男同士で一緒に飲むのが楽しくてしょうがない。
つまりは一緒になって羽目を外せる相手が欲しかったのである。
ーーーー
「お母さん、お父さんは?」
「何やら宴会があるから遅くなるらしいわよ」
「へえ。健司さんも飲み会があるって言ってたわ」
「あらら、さびしいわね」
「えへへ・・なので・・」
手にワインボトルを持っている。
「お母さんも一緒に飲みません?」
「このワインどうしたの?」
かなり美味しいワインである。
「健司さんにもらったの、どうかしら?」
「シャトーメルシャン 椀子?高いワインなのかしらね?」
その横に金色で書かれた”Omnis”の文字には気づいていない。
(高いワインです)
「メルシャンて、スーパーでも見かけるよね。珍しくはないんじゃ無いかな?」
美月は空になった自分のワイングラスにも、母親のさくらのグラスにもワインをなみなみと注いだ。
(高いワインなのです)
「このワイン、美味しいわね。」
と言って、さくらは注がれたワインを遠慮なく飲む。
ちなみに、二人とも顔色に全く変化はない。
そう、美月の酒の強さは母親譲りなのである。
「それで、健司さんとはどこまでいったの?」
「どこまでって・・えへへまだキスまで・・・?」
照れる娘。
「あらら、健司さん真面目ね。」
「そうなのよ、真面目すぎなの。だから困ってるの!」
その後、娘の惚気話に付き合いながらワインを何杯も飲む瀬戸さくらであった。
”まぁいい、誰でもいいからこのポンコツ娘を早くもらってほしいものだ”
母親は、内心ではかなり過激なことを思っているのだったが。
二人でワインをかなり飲んだ。ワインの瓶が数本空いている。
「ところで~、お母さんはお父さんのどんなところが好きになったの?」
だいぶ酔いが回った目つきの美月が言う。
ちなみにさくらは、まったく酔ったそぶりはない。
「うーん、好きになったというか・・・」
「え~?好きになったから結婚したんでしょ~?」
「お父さん、なんにもできないでしょ?この人、私がいないとダメなんじゃないかなと思ったのよ。」
美月の父親は料理をはじめ、家事は全くしない。というか、できないらしい。
「え~?そんな理由?」
「生活能力がセロなのよ。ま、同情なのか、母性本能なのか・・・」
「へ~、よくそんな生活能力がない人と結婚する気になったね~。私は無理かな~」
完全に、自分のことは棚に上げている。
・・・それが無理なら、自分が結婚できないことには全く気が付いていない。
そんな母娘の会話は、酔っぱらった父親がタクシーで帰宅するまで続いたのであった。
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