第2話 任命
『さすがにここまですれば、君も私が神だということを受け入れてくれただろう?』
「なっ…!」
目の前で起こった出来事にレイクは唖然とする。相手はあの六獄だ。たった一人で町すら滅ぼせる正真正銘の化け物だ。その中でもグクールは凶暴性が高く、最も恐れられていた。だからこそ、自分のような者でも知っている。そんな存在が何の抵抗も許されることもなく消されてしまったのだから、レイクの反応は当然だろう。
改めて、目の前の存在の姿を見る。不可思議な存在。ありえない行動。信じられないことを目の前で見せられたのだ。もう、受け入れるしかないだろう。目を閉じ、深呼吸をする。
「ああ、わかった。あんたを神と認めよう」
『やっと理解してくれたかね!いやーよかったよかった!ここまでやって信じてもらえなかったらどうしてやろうかと思っていたところだよ』
神は両手を広げ喜ぶ。
『さて、納得もしてもらえたことだし、本題に入ろうか。まず、君が、君たちが生きている世界は私が書いている物語のものだ。先ほども言ったように君にはこの物語の主人公になってもらいたい』
信じられない。荒唐無稽すぎる。しかし、それを信じなければならないほどの出来事がついさっき目の前で起こった。疑ったところで話は進まない。今はとりあえず、この話を聞くしかないだろう。
「で、俺を主人公にしてなにをしてほしいんだ?」
『ほう信じるのかね。さっきまで私の存在すら信じなかったというのに。』
「あんなことを目の前でされたんだ、信じるしかないだろう。そうしなかったら話も進まんしな。」
それを聞いた神は、嬉しそうに話す。
『それはいい心がけだ。では話を進めよう。私はこの物語を、君たちの世界を書いていて、正直なところ飽きてしまったのだよ。なので君たちには悪いが、この物語を終わりにしようと思う。』
「終わらせる?その物語とやらを終わらせると俺たちの世界はどうなる?」
『無論、消えるさ。当然だろう、世界が存在できるための舞台が消えるのだから。おっと、その点に関しては恨まれる筋合いはないよ。なにしろ君たちが存在できていたのは、私のおかげなのだからね。』
「確かに、その話が事実ならば俺はあんたに恨みはないさ。それなら、なんで俺をここに呼んだ?終わらせたいのなら、とっとと終わらせてしまえばいいだろう。」
単純な疑問だ。この話が本当ならば、物語の中の人間にこんなことを伝える必要がない。飽きたのならば、物語を終わらせるなり、書くのをやめてしまえばいいだけだ。
神は呆れたような様子で答える。
『私にだって書いていた物語に少しくらいは思い入れがある。そんな風にあっさりとは終わらせたくないのだよ。第一、それでは面白くないだろう?どうせならきちんと完成させたのさ。そこで、だ。レイク君には、主人公になって魔王を倒し、この物語を完結させてほしいのだよ』
レイクもまた、呆れたように言葉を返す。
「俺が?魔王を?無理に決まっているだろう。俺は戦いなんて全くできないぞ。自分が生きるために農業だったり、本を読んだりしかしていない。ただの平凡な一般人だ」
『そりゃあそうだろう。私がそういう性格にしたんだ。だから君には、ある能力を授けよう。君も、よく本を読むのならこういった展開は理解できるだろう?』
確かに、ただ平凡な人間がある能力を持って敵を倒していくというのは物語ではよくある展開だ。その展開を神は要求する。つまりはレイクをその立場に置こうとしている。
その意味は、
「俺に命がけで魔王討伐をしろってことか。」
『そうだよ。理解が早くて助かるよ。とりあえず、私が言いたいことを伝えさせてもらおう。君には主人公になってもらい、魔王を討伐してもらう。失敗したならわたしはこの世界に見切りをつけて、物語を書くことやめる。さっきも言ったように、それは君たちの世界が消えることを意味する。君が魔王を討伐できたなら、そうさな、世界を君の望むようににつくり変えようか。なんなら君が物語の続きを書いてもかまわないよ?」
神はレイクからの返事を待たずに話を続ける。
『さて、ここからは君にとって最も重要な、最も気になっていることを教えよう。君に与える能力についてだ。どうだい?気になるだろう?』
「御託はいいからとっとと話せ。」
『全くノリが悪いな~君は。まあ、いいだろう。それじゃあ伝えよう。』
目も鼻もないのに意地の悪い笑みを浮かべているのがわかるほど、神は楽しそうに言う。
『きみの能力は”主人公補正”だ。』
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