オープニングシーン・02「夏の日差しと陰の境で」

GM:PC①、舞佳のオープニングです。まず登場時に「1D10」を振ってレネゲイドの侵食率を上昇させてください。さっきジュードがやってたみたいに。


一衣舞佳:ダイスbot使ったサイコロの振り方はこうかな? ――出目10。


GM:いきなり44%ですか。エージェント疲れですね。


一衣舞佳:ダイス温めておきました。


一角ジュード:アゲてしまったな。だが、侵蝕率をアゲるかフロアをアゲるかに大した違いはねぇ!


一衣舞佳:やっぱ序盤はまだ助走だから、あんまり上げすぎないほうがいいのかしら。


GM:浸食率は上がると、ボーナスダイス数や技のレベルが上昇するから、途中の判定がこなしやすくなりますよ。


一角ジュード:ただ、上がりすぎるとジャームになってキャラロストするので、ほどほどがよいとされるな。


 この「力を使えば使うほど強くなるが、使いすぎると怪物になって“帰って”これなくなる」というのがダブルクロスというゲームの醍醐味の一つです。


GM:詩子との交流。日常シーンを演出していきましょうか。


◆ ◆ ◆


 ――季節は夏。学校の終業式後、帰りの通学路。


 「夏の部活、中止になったってさ」「やった」

 「オレ、英語5だったけど、お前は?」「通知表、家に持って帰りたくねーなー」

 「来年、受験で忙しいじゃん。だから今年はみんなで集まろうよ」


GM:車道を挟んだ反対側の歩道。T原駅に向かう道を、学期終わりの学生たちが埋めている。この夏の予定を話題に盛り上がるキミのクラスの同級生たち。嬌声を上げながらふざけ合う小学生たち。


一衣舞佳:「…………」


GM:「T原~!ファイ、オー」「ファイ、オー」 地元の野球シニア、T原タイタンズのユニフォーム着たグループがランニングの列をなしてやってくる。


一衣舞佳:……野球シニアとすれ違いざま、イヤホンを耳に押し込む。


GM:夏の日差しを受けた街路樹が、舞佳に深い影を落とす。ランニングの列は、君に気づくことなく横を通り過ぎていった。


 昨日と変わらない今日、今日と変わらない明日。

 この平穏な日常が続くと信じて疑わない人の営みだ。

 2年前まで、キミは何も知らずに“向こう側”にいることができた。


一衣舞佳:木陰で歩みを止めて、数秒。汗をかいた背中に薄地のシャツがひたり、と触れる。不快だ。


 「……ふ、ぅ」 意識して、腹から息を吐く。学生カバンの中に手を滑り込ませる。鞄の中の封筒には『辞表』、と書いた文字。


 (これを支部長に提出さえすれば。また、”あちら側”に戻ることができる。……未練なんて、ないと思っていたけれど)


一衣舞佳:確か、レネゲイドウイルスに関与した人間がエージェント(現場)にならない場合、後方支援になるか、記憶処理or口止めして日常生活に戻るか、みたいな話とかもあったような気がする。


GM:ですね。……焼けつくような夏の日差しと深い日陰の境目の場所で。君はUGNエージェントになった当時の、教官の言葉を思い出す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 『UGNエージェントを辞めることができるか、できないか?』

 『いくつかの選択肢はありますが辞めることは「可能」です』

 『エージェントとして多くの戦闘任務に当たり、機密情報に触れていた場合は……一般の生活に戻ることもできますが……、安全と秘密保護のため、数年単位分の記憶処理を施されるでしょう』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一衣舞佳:そんなに消されるんだ……。


GM:引退後、悪いテロ組織に“脳味噌(きみつじょうほう)”をチューチューされると困りますし。全てのUGN支部がここまで厳しくやってるかは知らんけど。



 君は、日常に戻ることは『可能』だろう。

 オーヴァードとして覚醒したあの日の挫折も、2年間で味わってきた無力感も、すべて忘れて。生活にレネゲイドの存在しなかった頃の自分に……。


GM:舞佳は感情に任せたレネゲイドコントロールを行うタイプのオーヴァードだし、特に厳重な記憶処理を施されるでしょうね。オーヴァードであることすら思い出せなくなる。


一角ジュード:人手は不足してるし、暴走の危険もあるしな。「事情が理解できてワーディングに引っかからない人材」ってのは能力関係なしに需要がある。んでオーヴァードは精神の乱れで暴走したり、最悪ジャームになる危険性もあるので、どうあれ首輪はかけておく必要はある……というのがUGNの見解。


一衣舞佳:なるほど。どうあれ管理下には置いておかないといけないんだ。


鬼頭哲太:オーヴァード、その気になれば一般人を一方的に惨殺できるし完全犯罪やりたいほうだいですから。


八乙女龍馬:非オーヴァードを無力化できるワーディングエフェクトを標準装備してんのが強すぎる。手放せない機関銃を持たされてるようなもんだな。


一衣舞佳:………。


GM:『………チリン、チリン☆』自転車のベル。


一衣舞佳:選択肢に押しつぶされていた思考が、軽やかな鈴の音に引き戻される。振り返る。


GM:音のした方を向いてみれば……道の向こうから、大荷物を積んだ積んだ自転車を押しながらやってくる、小柄な女子の姿。


 「……ヘイ、ちょっといいかい!そこの美女ー!キミだよキミ。舞佳、舞佳ぁー!」


 クラスの友人、四方木詩子(よもぎ・うたこ)だ。

 押している自転車の後ろには、大きな段ボール箱を2段積み。

 かなりの重量物らしく、自転車を押す彼女の足取りは重く、フラフラと危なっかしい。


四方木詩子:「助けてくれ、積み荷が崩壊寸前だ!腕が折れちゃう!」


一衣舞佳:「……そう。腕がなくなっても、ずっと友達だよ。詩子」


四方木詩子:「見捨てられた私は友達だとは思えなくなるよ!?」


一衣舞佳:険のある表情は和らぎ、いつのまにか口元は笑んでいる。


 「いつも通り、対応が氷点下過ぎるよー」 額に汗しながら、なんとか舞佳の前まで自転車を押してゆき人心地つく。


四方木詩子:「なんだよ、いいじゃない。追加の荷物くらい!普段からそんな重量物ぶら下げてるくせに」 視線が舞佳の胸へと注がれる。かなり『ある』、という設定でしたね。


一衣舞佳:あります、かなり。 「お陰様で、育ち盛りだからね。これ以上、重いもの持ちたくないの」


四方木詩子:「誰に対しての、か弱い女子アピールだよ!ハッ!?ね、狙ってんのかぁ……私の事……」


一衣舞佳:「詩子、付き合ったら毎晩メールしてきそうだし。記念日とか、覚えてないとうるさそう」「で、ナニコレ?」 こんこん、と積み荷をつつく。


四方木詩子:「夏休み中に部室棟の改築工事するから、部室の荷物を全部持ち帰れって言われたの。急に」 彼女はパソコン研所属。閉じ切っていないふたからのぞく中身は、プリンターとか去年の文化祭の展示物らしい。


一衣舞佳:「工事?急に?」


四方木詩子:「そう、突然。不審火で焼けちゃったとかで」


一衣舞佳:自分はこの火事に関して何か知っていますか?


GM:UGNに所属する舞佳は知っている。数日前に学内でオーヴァード同士の戦闘が起こった時の被害だ。ちなみにこの事件自体は既に解決済みで、本編には関係ないよ。常日頃から、キミらの身近なところでレネゲイド事件は発生し続けているのだ。


一衣舞佳:なるほど。 「不審火。どうせ、誰かがこそこそ隠れて、煙草でも吸ってたんでしょ」 UGN処理班の報告書に口裏を合わせつつ、軽く自虐を挟む。


四方木詩子:「んもー、第一容疑者!最近は吸ってないだろうな……」


一衣舞佳:「どうだろ。臭い、する?」


四方木詩子:「どれどれ」「ふー……荷物休憩」 んじゃ、舞佳の胸に鼻から飛び込む。 「なー、ちょっとウチまで荷物半分持ってってくれよー。お礼するからさー。今日、ウチに誰もいないの。……いや、家族帰ってこないのはいつものことだけど」


一衣舞佳:「……アンタ、その頼み方、男子にもしてないでしょうね」 胸元の詩子が、視線を上げないように、顎を頭に乗っける。


四方木詩子:「相手は選んでやってるって……。なーなー、ここから10分距離だからさー」


一衣舞佳:「……はあ、もう」


 「次からは、一人で無理だと思ったら、すぐ私に頼みなよ」

 荷台で崩れかけていたコピー機を抱え、もう片方の手で自転車を押す。

 半分、とは言わない。あの上目遣いで落とされる、自分が悪い。


一衣舞佳:あぁ~~~~~イイ~~~~。


一角ジュード:癒し。


GM:詩子は身長154cm。身長170cmの舞佳と頭一つ分の差という感じで。


四方木詩子:「やりぃ~! じゃあそんなやさしい舞佳には……ビッグプレゼント!」「今、巷で噂のチョー大型新人の初舞台のチケット……と、言ったらもう分かるかな」 彼女は鞄を探りながらチケットとパンフレットを取り出す。


一衣舞佳:「……?」 芸能関係には、疎い。パンフレットに目を落とす。


四方木詩子:パンフレットには……タカアシガニじみた2本のアームを備えた、巨大重機の写真!


 「そう、デルフ石油が行う『汎用作業重機“TYPHOON(タイフォン)”見学会』の招待状だー!」


一衣舞佳:「…………、……」


四方木詩子:「ウチの叔母さんがデルフ石油の株主でね。株主優待ってヤツよ。ちょうど2枚分がポストに届いててね。おっと、舞佳の分があるや」「………テンション上がるだろ?」


一衣舞佳:「…………、……」


四方木詩子:「えっ。その反応……アジアにまだ2台しか存在しないという40m級重機タイフォンをご存じない!?」「あの、『移動する工場』とも『アニメのロボが現実になった』とも称される未来のマシンを!?」


一角ジュード:冷静に考えてJKは重機で喜ばないのである。


八乙女龍馬:まあメカニック女子とか極まった変人要るしなあ。


四方木詩子:重機萌えとか工場見学ブームとか、あるだろ! 「実際に動いてるの見たら、絶対テンション上がるって~~~!」


一衣舞佳:「へえ」


四方木詩子:「二文字で流された!」


一衣舞佳:「私一人で行っても、よく分からないし……」


四方木詩子:「チケット二枚とももらう前提かよ!?」


 「と・に・か・く、渡した!今週の、日曜日、だから!」

 チケットを強引に舞佳のカバンに押し込む。


四方木詩子:「なんか舞佳、去年は色々用事とか?あったんだっけ?あんま、遊べなかったし」


一衣舞佳:「…………ああ、うん。ちょっと、バイトがね」


四方木詩子「……今年は暇ならいいなって」そう言って、詩子は拗ねたように唇を尖らせている。


一衣舞佳:「それは、」


 ごめん、と言いかけて、唇が止まる。


四方木詩子:「舞佳は、何かあったら自分に頼れっていうけど」「そっちがアタシに頼ってくれたって、いいからね」


 「……舞佳、何か隠してることある?」


 ある。


一衣舞佳:「ないよ。いつも相談してるでしょ」


 「大丈夫。バイト、辞めるつもりだから……」


四方木詩子:「………。なんだよぉ~~~~!それなら早く言ってよ!」 暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばすように、笑顔を輝かせる


一衣舞佳:「そうなったら、あの……なんだっけ。まつげ伸ばすやつ」


四方木詩子:「まつエク?」 まつげエクステ。


一衣舞佳:「それ。いろいろ、教えてよ。私、細かい作業とかダメだから」


四方木詩子:「任せといて! ン年間放置されてた原石を輝かせてあげるわ! よ~し、今年の夏は、思いっきり楽しんで―――」


一衣舞佳:「……で。この重労働の報酬のビッグプレゼント、いつもらえるワケ?」


四方木詩子:「流れるように酷い!?」


一衣舞佳:詩子のはしゃぐ様子に、頬を緩ませた。


 上手くごまかせた、と思う。


 私の手には随分と軽い自転車を押しながら、彼女のちいさな背中を追う。


◆ ◆ ◆


GM:その日の夜、舞佳の携帯端末にUGN情報部からの連絡メールが入る。


 『T市湾岸エリアにて、レネゲイド濃度の緩やかな上昇を確認』

 『本日からの1週間、湾岸エリア周辺を、要監視区域に指定します』

 『非番のエージェント・チルドレンも警戒期間中は、指定エリアに急行できる生活を心がけましょう』


◆ ◆ ◆


GM:シーンエンドです。詩子へのロイスを取得してください。


一衣舞佳:「P:庇護/N:無関心」。庇護を表にしておきます。ンは~~~~~~~~~~~楽しかった。


GM:フゥー、GMもいい空気吸わせてもらいました。ここからさらに加速します。


一衣舞佳:楽しみ。……N(ネガティブ)の方は、嫉妬とか劣等感でもよかったかな?


GM:酸素を吸って二酸化炭素を吐くように、たやすく曇ろうとしてゆく。


一衣舞佳:あとはこの鞄の中の辞表をいつ出すか……。ちなみに、八乙女支部長とは面識あるってことにしていてもいいですか?


八乙女龍馬:I(アイ)は新任なんだよな。どうしようか。


一角ジュード:あっていいんじゃないの? 新任っつっても昨日来たってわけじゃないんでしょ支部長。


八乙女龍馬:そっちのやりやすいようにしてくれ。


一衣舞佳:メールだけでお仕事のやりとりをしていたかもしれない。在宅エージェント。


GM:リモートワークじゃ辞表は渡せねぇな。


八乙女龍馬:それとも、辞表出しに行ったらなんか支部長が女の子になってたとか。


GM:「八乙女支部長いますかー?」 なんか初めて見る女の子しかいない……留守か。


鬼頭哲太:メールだけでやり取りしてて、実際に会ってみたらこのおじいちゃんちゃんに出会うの、事故。

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