第4話
死んだはずの俺は、生まれたばかりの女の子の上にいた。
黒髪の青い目のとても小さな女の子だ。ピンク色の産着にくるまれていて、俺は妹が生まれた時のことを思い出していた。
俺自身はぼんやりと浮かんでいて、ユーレイにでもなったかのような感覚だった。改めて確認すると俺には手足がなかった。胴体や頭がある感覚もない。というか、体の感覚がない。
たぶん、俺は火の玉のような形の魂だけの存在になったんだと思う。普通の人には見えない感じの。なんで普通の人に見えないのかと思うのかと、こんな不信人魂の俺が娘に近づいても保護者達は何にも言わないからだ。俺だったら間違いなく祈祷師を呼ぶような光景になっているにも関わらずだ。
俺は産まれたばかりの娘から離れることができないらしかった。がんばっても、離れるのは一メートルが限界だ。リードに繋がれた犬になった気分である。
最初、俺は時代錯誤な生活をしているどこかの国の貴族の守護霊とかになったのかと思った。しゃべっている言葉も分からないし、俺がずっと一緒にいることになった女の子も保護者たちも外国人みたいな容姿だった。
縁もゆかりもない人間の守護霊になっている理由はよくわからなかったが、とりあえず生後間もない女の子を守ることには異論がなかった。俺が本当に守護霊なのかという疑問は、この際は置いておくことにした。今の俺にはできないことが多すぎるし、悪い霊だとしても女に子に害をなすことはできないであろう。
喋っても聞こえないし、触れない。
生きている間には妹の成長を見守ってきた俺である。幼い女の子の成長を見守るのは、それなりに楽しかった。だが、女の子が成長し、行動範囲が広がるにつれて、俺は疑問を抱くようになった。女の子と一緒に、日常会話を覚えていったのも大きい。世間が広がれば広がるほどに、これって本当に現代なのかと思うようになったのだ。
生活に電灯は使わないし、長距離の移動は馬車。むろん、テレビもネットもない。いくら時代錯誤な生活をしているからって、現代でこんな生活は可能なのだろうか。
そんなとき、母親の言葉が聞こえた。
母親の兄が、女の子を養子に迎えたいという話だった。母親の兄には子供はおらず、家と事業を継いでくれる子供が欲しいとのことだった。そのとき、母親から兄の話を聞いたのだ。
兄の苗字は「スェラ」
もしも、女の子が養子に入ったらリゼ・スェラ・リリシナになる。
その名前を聞いて、俺は思い出してしまった。
生前に俺が妹に借りたゲーム。
そのゲームに出てきた、名前だ。
そして、リゼはゲームのチュートリアルで殺されてしまう令嬢の名前だった。俺はできる限り、ゲームのことを思い出す。
たしか、リゼは両親を亡くした後に、事業をやっている親戚(たぶん母の兄)の養子になった。でも、ゲーム中の国では女の子は事業を継ぐことはできないから、彼女の婿は会社を継ぐことが運命付けられることになる。ちなみに、兄の会社の事業は超大きい。国で一番の企業だ。
ここからが、複雑な事情がからんでくる。
ゲーム中の国は、王政だ。だが、絶対君主の時代は去り、王族の権力は小さくなり始めていた。王は権力を再び持つためにも、まずは金銭面から整えようとする。そこで、王子(ゲームに複数でてきていたが、どのキャラかは忘れた)をリゼの婚約者にしたのだ。
『そうそう、そんな話だった』
できる限り思い出して、俺は真っ青になった。
このままでは、十七年後にこの子が死んでしまう。妹のように思いながら、成長を見守っていた子が。
俺の脳裏に、妹の笑顔がよみがえった。前世では途中までしか成長を見守れなかった、妹。
『そんなことさせてたまるかよ』
俺は、そう決心した。
妹のように成長を見守ってきた子を死なせない。
それが、俺の目標になった。
まぁ、現状ではなんにもできなかったが。
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