第3話

私ことリゼ・フォレス・リリシナは、起床後にすぐに着替え始める。


ふかふかのベットから出るのは名残惜しかったけれども、仕方がない。分厚いカーテンはもう開かれて、日光が私の部屋を照らしていた。子供が使うには大きすぎる家具ばかりが、並べられた部屋。ベットだって、私は半分ぐらい余らせている。


『子供用の家具とかがないんだよな。まぁ、家具も手作りだから一生ものということなのかもしれないけど』


 頭のなかで、可笑しな声が響いた。


 たぶん、男の人だ。


 声からするに若いのだろうけど、この部屋に若い男なんていない。いるのは、私とメイドのセリシナだけだ。


「セリシナ、なにか喋った?」


「いいえ、お嬢様。それよりも、はやくお支度を」


 セリシナの言葉に、私はげんなりした。


衣装は今日もセリシナが選んでくれている。だが、それに問題があるのだ。


セリシアは中年のメイドで、我が家で長く働いている。頼りになるのだが、服を選ぶセンスはいまいちだ。今日もピンクのふりふりとしたドレス。ちなみに、昨日もピンクだった。


たまには、青が着たい。


『ピンクが似合うと思われてるんだろ』


男の声がうるさい。


『あと、文句の一つもいったら?文句もなく着ているから、相手も変えてこないんだぞ』


けっこう、もっともなことも言う。

 

着替えが終わったら、食堂に行く。すでに母が、席についていた。テーブルには、暖かな飲み物が並べられている。隣では乳母が幼い弟をあやしていた。


「おはようございます、お母様」


 私は、スカートを持ち上げて母に朝の挨拶をする。


「おはよう、リゼ」


 母は、今日も優雅な挨拶をする。


 父がいないということは、もう仕事にいってしまったということだろう。我が家は狭いながらも領地をもっており、父はそこの運営のためにいつも領地内を飛び回っている。


「ところで、昨日あなたが頼み込んできた家庭教師の件だけどお父様に話をしたら用意してくれると言っていたわ」


 母の言葉に、私は茫然とした。


「新しい家庭教師?」


「ええ。剣術に異国語、あと数学の家庭教師よ」


 母の言葉に、私は思わず首を振った。


 そんなものを頼んだ覚えはない。


『俺が頼んでおいた』


 頭に響く声に、私は「どうしてそんなことを!」と叫んだ。


 母や乳母、朝ご飯を持ってきてくれた使用人も私の声にびっくりしていた。


「どうしたの?」


 母が、私に尋ねた。


「いえ、なんでもありません。ちょっと精神的な疲れが」


『精神病とかじゃないからな』


 本当に、頭の声がうるさい。


『ここじゃ、詳しい話ができないからあとで。とりあえず、朝食を食え』


 朝飯を抜くのは健康に悪いんだぞ、と頭の中の声はいう。


 あなたの声を聞きながらの生活が一番精神と肉体の健康に悪そうなんだけど、とは言えなかった。


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