第10話

「かかれ!」


 開戦の合図は、シバリアの声だった。

 その声に、全員が一斉に躍りかかる。おのおの得意武器を持って、それを振りかざしていた。

 敵の陣形は鏃型だ。というか、何も考えずただ突撃しているだけで、自然とそういう形になってしまったのだろう。それを迎撃するこちらの陣形が鶴翼の形になるのも、また自然な事だった。

 グノーツ傭兵団、総勢二百人足らず。欠席者もいるので、現在は百五十人程度だろうか。千を超える軍勢を迎撃すると考えれば、これは無謀な事だとしか言い様がない。

 しかしと、シバリアは自分の背丈より大きな大剣を振りかざした。

 百五十名、一人としてまともな頭をした者はいない。誰も彼もが、狂った殺人狂だ。息を吸うように人を殺せる者たち。奴隷戦士時代も、その後の戦争時代も。人を殺すのにいちいち感情を持つような者は生き残れなかった。

 敵陣中央を迎撃するのは、シバリアの担当だった。左翼をポポルとブフーが、右翼をリルエが包むよう、自然と担当が決まる。インヘルトはその間に、敵陣深くに潜り込み、大将首を取るだろう。

 つまり、彼のいる場所こそが、一番負担が大きく、抜かれてはいけない場所だった。


「ぬぅん!」


 大きく息を吸い、吐き出しながら、先頭を走ってくる怪物の群れに、強烈な一撃を振り下ろした。振り下ろしの一撃は、まるで爆発のように地面ごと敵を裂き、鏃の先端を破壊した。

 敵から声は上がらない。やはり、理性がなくただ戦うだけの獣なのか。

 敵の反応はないが、味方から歓声が上がった。普段一番槍と言えば、インヘルトが強力な斬撃で陣形を破壊する威力でごっそりやるのだが。そうでない時は、大抵シバリアが最初に接触する。


「ふっ!」


 地中深くに潜り込んだ大剣を力任せに引っこ抜くと、それを横に構える。そしてまた全身の膂力任せに、今度は横薙ぎに振るった。数体の化け物が、上半身と下半身を永遠に別れさせる。

 敵の勢いを殺ぎ終えたところで、シバリアが片手で剣を掲げて言った。


「今だ! 潜り込め!」


 敵の必勝の型がどういったものかなど知らない。というか、そもそもが即席の軍勢だ。ただ突撃するしかないのかも知れない。

 が、傭兵団には必勝の方があった。というか、考える頭もなく、軍事的素養もない連中に取れる手段など一つだけだろう。

 強引な浸透からの混戦。一個人の馬鹿みたいな強さに明かして、相手から陣形の利を捨てさせ、連携の取れない一体多を作る。自分は相手より圧倒的に強い。それを当て込んだ、強引な戦い方。

 ともすれば、自傷以外の何物でもない戦法だったが。しかし、彼らはそれで負けたことは一度もなかった。

 味方の浸透が始まっても、シバリアの近くに味方はいなかった。というか、誰であっても、自分の近くに味方はいない。連携の取れない味方と背中合わせになるよりは、一人で戦った方がまだ強いという判断から、自ずとそうなった。実際、傭兵団内で連携を取れる者は少ない。


「……くくっ」


 シバリアは笑った。振り下ろした剣を、筋力で無理矢理勢いを止め、振り上げる。どこまでも力任せの戦い方。しかし、それで勝ってきた。今も昔も。


(戦うと……どうしても、奴隷戦士時代を思い出すな)


 思いながら、大剣を振り回した。今度は勢いに逆らわず、何回転かさせて、肩に担ぐ。

 忌まわしき過去。団員の大半にあるだろう傷痕。

 今となっては仲間と言っていい者たちと、無理矢理殺し合わされた。円形の戦場で、無数の蛆虫に見下される中、考えられる全ての敵と戦わされた。それらを嬉々として行っていたのは、インヘルトくらいだろう。あれは戦いさえあればいい、そういう男だった。


「ふっ!」


 剣を水平に構える。体を引き絞って、一気に爆発させた。分厚い金属塊の突きが、あらゆる障害を抉り飛ばす。

 戦争時代、これは転機と言えば転機だったのだろう。今までも決して穏やかなペースではなかったが、それ以上に早く仲間は死んでいった。代わりに得たものは、今まで顧みる余裕もなかった者が、実は自分に限りなく近い存在だと知る機会だ。


「はぁっ!」


 突き出した剣を振り回す。腕を伸ばした状態で振り回すのは、一見むちゃくちゃな行為に見えるが。シバリアの腕力でそれを行えば、必殺の技になる。

 戦争時、孤立した奴隷戦士たちは、控えめに言っても頭脳となる機能が足りなかった。それを補ったのが、シバリアとセナウだ。シバリアが前線で指揮を執り、セナウが後方でそれを支援する。自然とそんな形になった。

 だからだろう。シバリアはインヘルトを除き、唯一セナウの苦悩が分かる人間だった。セナウが傭兵団として自分たちを切り捨てる決断をした時も、それを受け入れた。

 彼とて思うところがなかったわけではない。だが、他者より少しだけ回る頭と、セナウと連携した経験から、分かってしまったのだ。他に手はない。


「お――おおおぉっ!」


 シバリアは跳ねた。

 感覚としては、軽くつま先だけ蹴った程度のものだが。その程度で、武器も併せて総重量二百キロを超える巨体が、人間一人分もの高さに舞う。

 空中で体を捻り、思い切り薙いだ。敵は、大剣に接触する感触すらも感じさせず、吹き飛ばされる。

 背後からその様子を見ていた仲間から、再度称揚が上がった。

 とりあえず、これで第一陣は倒したらしいが。どうせ何も考えず突撃してくる敵だ。第二陣などすぐにやってくる。


(俺などこの程度なんだがな)


 苦笑は表に出さず、シバリアは考えた。

 幹部。それはつまり、傭兵団の中でも最強クラスの人間の事だ。その強さは、自惚れを引いたとしても、大国の特殊打撃部隊一つを壊滅させられる。奴隷戦士時代で言えば、二つ名のつくような戦士のことだ。

 シバリアは他の幹部に比べて、二回りは弱い。その程度の自覚はあった。

 それでも傭兵団の副団長やら参謀やらをしているのは、偏に、他に適任がいないからだ。良くも悪くも(いや、良い事などないか)戦いしか知らない者たちなのだ。


「シバリアさん」


 無造作に敵の群れを切り倒していると、不意に団員から声をかけられる。

 言葉遣いは、無教養な団員にしては丁寧なものだった。シバリアの年齢は四十混じり。実働部隊の中では最年長の部類である。そのためか、ともすればインヘルトより丁寧に扱われることがある。


「敵、弱えっすね」

「そうだな」


 近場の化け物を、殴り潰しながら答える。

 敵の数は七倍近い。さすがにそれだけの数となれば、無尽蔵にも感じる。まあ、この程度の数の差、戦争時代にはいくらでも経験した程度でしかない。


「でも、このままでいいんすかね?」

「何がだ?」


 言わんとする意味が分からず、反駁する。

 作戦(と言えるほどの事でもないが)の事を言っているのだろうか。しかし、これはいつもと同じ事なのだが。そうでなくとも、そもそも高度な作戦行動を取れるほど、洗練した動きを期待できる組織ではない。


「躯染めの事っすよ」


 彼はどこか不安を口にするように続ける。


「俺たちゃ人間相手も魔獣相手も、いくらでも続けてきやしたけどね。さすがに伝説の躯染めなんぞ相手にするのは、ちょっと避けたいっす」


 気弱な様子は、戦いにも影響を与えたようだった。武器を振る手が鈍っている。


「話半分だとしても、躯染めは相手していいような手合いじゃないっす。はっきり言って、自分から命を捨てるような真似はしたくねえ」

「まあ、そうだな。その意見には俺も同意だ」


 言いながら、シバリアは片手で大剣を振るった。そこらに群がっていた化生が、威力に負けて四散する。

 躯染め。シバリアも、それを直に見るのは初めてだった。

 話伝いにあるような、見ただけで発狂するような能力はないようだったが。しかし、近づいただけで魂を削るような力はあるようだ。今も、シバリアたちはさして近づいていないにも関わらず、魂に直接与えられるような圧力を感じる。

 まあどのみち、躯染めの能力は千差万別。あらゆる話の中で、全て別の権限を持っている。ただでさえ強いというのに、決まった対処法はないという事でもあった。


「まあ気にするな」


 しかし、シバリアは気楽に答えた。


「躯染めは我らの団長様が予約済みだよ。手なんぞ出したら、逆にインヘルトから恨まれる。相手できたとしてやめとけ、としか言えんな」


 はは、と彼は破顔しながら言った。

 それで不安が落ちたかはまでは分からなかったが。しかし団員は一応納得したようで、手に力が戻っている。


「そっすね。躯染めよか団長がすねるほうが怖えや。今はかわいらしい姿になっちまってるけど」

「あまり言ってやるなよ? 本人が気にしてないとも限らないんだ」

「そんな繊細な人っすかね」


 はは、と笑いながら、互いに敵を押しつぶしていく。

 攻勢は順調だった。敵は弱く、連携も取れていない。さほど苦労なくすりつぶせる。この調子なら、あとどれほどもせず殲滅できるだろう。

 と――

 急に、空気が悲鳴を上げた。

 空から何かが落ちてきたのだ。甲高い音を上げて、それはシバリアの正面に着地した。爆風は、シバリアの巨体でさえ多少あおられのけぞるほどの威力だった。

 土煙の中、落ちてきたそれが首をもたげる。

 姿は、はっきりと化け物だった。しかし、今まで相手していたものとは違う。全身にうろこのようなものが生えているし、そもそも体格も二回りは大きい。意味があるのかは分からないが、頭部も二つあった。


「まあ、そうだよな」


 シバリアは大剣を握り直し、改めて構え直しながらつぶやいた。


「伝説の躯染めを相手にしようってんだ。そう簡単には済まんよなあ」


 目を細め、体から余分な力を抜く。目の前にあって、強さがどれほどまでかは分からないが。しかし、気を抜いていい程度ではないという事も分かる。


「全員、俺から離れろ! 周りに気遣ってられる程度ではないぞ! 巻き込まれて死んでも知らんからな!」


 大声で叫ぶ。

 団員たちの反応は素直で、シバリアの周囲から人が撤退していった。

 薄く息を吸い込み、意識を集中させていき。その新たに現れた化け物が動くのを待ち構えた。




   ▲▽▲▽▲▽




 グノーツ傭兵団の中において、リルエの役割というのは単純明快だった。つまり、強力な術をもって敵の数を減らす。これに尽きる。


我が声に従えセンテンフィア!」


 手に持つ弓を引き絞り、燃えさかる炎をつがえる。弦から手を離せば、炎の矢は無数に分裂し、発射された。紅蓮はきゅぼっ! と小さな音を立てて収縮し、一瞬にして消える。が、次の瞬間には、まるで瞬間移動したかのように突き刺さり、高熱の玉が周囲を飲み込んだ。それだけで、数十体の敵を飲み込んだ事になる。


「ちょっと威力高すぎたかしら?」


 少々飛んだ状態から地面に着地し、そんなことを漏らす。

 前線では味方の戦士たちが混戦を続けている。彼女にできるのは、その後ろの敵を可能な限り減らす事だが。


我が声に従えセンテンフィア


 今度は飛ばずに、再び唱える。

 弓を高く上げ、下ろすと同時に弦を引く。今度生まれたのは球体だった。不可視のそれは、風が舞うようにくるまっている。

 弦に触れている右手を離す。と、風刃が爆裂するようにはじけた。前方扇状に飛び、ある刃は仲間の合間を縫って、またある刃は頭上を通り抜け曲がって、それぞれの標的に突き刺さる。

 風刃はそれぞれの敵に突き刺さった。

 相手は人型であり、つまり構造上人間とさほど大きな違いはないと思われるのだが。すくなくとも、骨と筋肉の構造を無視することはできないはずだ。

 ある刃は手足の腱を傷つけ、またあるものは首を半ばまで断った。しかし、化け物はそれらをものともしない。魂の情報体そのものにダメージは与えているため、治癒こそはできていないのだが。しかし、体の一部が動かない事など無視して行動してくる。頭部が取れかけても動いてくるあたり、そこが急所という訳でもないようだ。


「弱い割には厄介ねえ」


 ぶつくさつぶやきながら、彼女はまた攻撃準備に入った。


「こいつら止めるには、明確に破壊しなきゃならないのね。体を半分くらいにぶっ壊せば、さすがに止まるみたいだけど」


 言いながら、初撃を与えた敵を見る。炎熱攻撃で、大体の敵は炭も残っていないが。体を半分ほど焼かれ、失った敵は、動きを止めて転がっている。

 手の中で弓を転がしながら、彼女はつぶやいた。


「もしかしたら、これはかえって邪魔だったかもね。失敗したわ」


 朱華天しゅかてんの弓。彼女が故郷から持ち出した、数少ない道具の一つ。

 これに本物の矢をつがえる事はできない。いや、できなくもないが、真っ直ぐは飛ばない。完全な魂啼術補助具であり、術の同時発動、拡散射撃などを補助してくれる。いちいち挙動が必要なため、連写性能こそ低いものの、その収束倍率は、並の防御術ならば簡単に貫いてくれる。

 高度な魂啼術士が使えば、強力無比な武器ではあるのだが。こう数が多くてしぶといだけの敵であると、かえって普通に術を使った方がいいかもしれない。

 まあその場合、味方が邪魔ではあるのだが。

 こう混戦が続くと、敵の討ち漏らしはあった。というか、敵を背後に漏らさない役割は、シバリア班だけだ。なので、自然に敵は出てくるものだが。

 リルエは素早く武器を回して背負うと、視線を鋭く飛ばした。


我が声に従えセンテンフィア


 言って、視界が煌めく。

 光跡を帯びた鞭が、団員の合間を縫ってきた敵数体を輪切りにした。


「よし」


 言いながら、彼女は眼鏡の蔓を指先で押さえる。

 眼鏡型の魂啼術補助具、くるわ。いろいろと付加機能がある朱華天の弓とは違い、こちらは照準の補助程度の機能しかないが。それでも、朱華天の弓の補助具と考えれば、かなり便利な道具ではあった。

 それからも、衝撃波や熱光線で、敵背後の数をどんどん減らしていく。

 と、いつの間にか、敵が、包囲の外側から溢れてきた。

 元々百五十人そこそこで、千体ほどの敵を包囲などしていたのだ。加えて、右翼はリルエがいることから、割り振られた人員が一番少ない。この手の事態はあってしかるべき事だった。


「っどっちいわねぇー」


 手間をかけさせてくれた敵に、文句など言いながら。背負った弓を再び構え直す。

 とりあえず味方がいないので、規模を絞る必要もない。そのため、大規模な術を展開しようとして。

 急に、先頭を走るいくらかの化け物が倒れた。

 何事かと思って、観察する。の気配は恐ろしく薄かった。それこそ、敵の中に紛れ込んでも、相手がそれを察知できないくらいに。

 敵は切り刻まれ、ばらばらと倒れていく。先頭にいる敵が倒され、崩れるため、そのたびに足を取られて動きが鈍くなる。その隙に、リルエは十分すぎるくらいに力をため込むことができた。


「避けなさい!」


 大声で宣言して。それが聞き届けられたかどうかも確認せず、彼女は高らかに叫んだ。


我が声に従えセンテンフィア!」


 強力な空間圧縮砲。水面に映った景色に、波紋を走らせて圧縮したような光景が生まれ。次の瞬間には、それが真っ直ぐに放たれる。

 爆縮した空間のハンマーを、高速で打ち出す、乱暴かつ強力無比な攻撃だ。砲弾は音も立てずに前進し、敵を飲み込む。敵の先端に接触した瞬間、重ねて圧縮した弾丸の表面一枚が剥がれた。剥がれた空間は通常サイズへと戻り――つまりは空間を破断する衝撃波となって、辺りにまき散らされた。空間圧縮弾はその後も直進を続けて、直線上にいる敵を抉り飛ばし、やがて地平線の彼方に消えた。

 もしかしたら百体はいたのではと思える数の敵が、一瞬にして融けて消える。

 残心の姿勢でそれを見届けるリルエ。その上に、すとんと肩車の姿勢で小さな影が乗っかった。


「まま、やった」

「フェリス、ありがとうね」


 リルエに乗っかったのは、最年少の殺し屋だった。

 両手にはナイフを持っており、それで敵を切り刻んだのが分かる。

 わずか六歳にして、すでに他の団員と比べても頭一つ抜けた力を持っている。生まれるのがあと数年早ければ、傭兵団の幹部にもなっていただろう。少女の魂啼術適正と、それと複合した体術センスは、そう思わせるだけのものがあった。


「戦うのはいいけど、あんまりあたしの近くから離れちゃ駄目よ」

「あい」


 少女は小さく頷いて。リルエの肩を蹴った。翻って着地し、ナイフを構え直す。両手で逆手に持ち――つまり背後から近寄ったとき、体重を乗せやすい持ち方で。

 それから二発ほど、術の援護射撃をしたところで。

 今度は敵が、空から振ってきた。今までの雑魚とは、そもそも気配からして違う。強力な圧力が、天空を切り裂いて飛ぶ。


我が声に従えセンテンフィア!」


 リルエは即座に唱え、圧縮光の矢を放った。

 純然たる情報破壊弾。接触すれば、それだけで物体がという意味を失う。瞬発的な対単体攻撃術としては、最強に近いものの一つだったが。


「げっ」


 リルエは苦々しげにうめいた。

 空飛ぶ敵が、飛んできた魂啼術を弾いたのだ。回転に負けるように、光の帯が散らされ、拡散する。

 彼女は即座に予測を立てた。これは情報破壊攻撃に特別耐性があった訳ではない。単純に、魂啼術に対する防御力が高かったのだ。つまり、単なる威力不足。


「フェリス、前言撤回するわ」


 言いながら、リルエは少女の背中を叩いた。

 敵が着地する。本当ならば、こうして対峙する前に、とっとと消滅させてやりたかったが。


「あっちで仲間と一緒に戦ってなさい。あたしはちょーっと、こいつと遊ばなきゃならないみたいだから」


 敵から目を離さないまま、告げる。

 が、フェリスは動かなかった。薄ぼんやりとした視線で、リルエを捉えたまま聞いてくる。


「まま、平気?」


 一瞬、何を問われたか分からず、きょとんとしたが。彼女はすぐに顔を笑みの形に作り直して告げた。


「当たり前でしょ? あたしはこれでも傭兵団の幹部なんだから。あの程度ちゃちゃっと始末してやるわよ」

「……わかった」


 まだ、納得したとは言いがたそうな表情ではあったが。それでも少女は言葉を信じて、わちゃわちゃと戦っている傭兵団の中に混ざっていった。


「さて、と」


 フェリスが完全に消えたのを確認して、彼女は目を鋭くした。

 天性のものか、それとも単に術で防御したのかは知らないが。対魂啼術に特化した存在と戦うとなると、そう気楽にもしていられない。


(ま、考えてみれば分かる事よね)


 無理に自分を納得させるように、独りごちる。


(現場にはポポルとブフーがいたんだから、それらに対抗できそうな程度の相手は用意してしかるべきものよね。用心して、中には魂啼術特化の存在作っていたとして、さほど疑問はないわ。それがあたしに向けられるのも)


 指先を軽く動かして、弓を撫でる。それは銃が台頭した世の中では、控えめに言って重く古くさい武器だったが。今はその存在が頼もしかった。


(やっぱり持ってきてよかったわ、朱華天の弓。これじゃないと、さすがに防御は貫けなさそうだし)


 足を開き、弓を掲げて、完全な対個人姿勢に入って。

 現れた敵は、全身を鏡張りにしたような姿だった。それが、戦闘姿勢を取って、今か今かと待ち構えている。


「待っててくれたの? 案外律儀なのね」


 言葉が通じたかは分からないが。しかし言葉と同時に、両者ははじけるように動き出した。


我が声に従えセンテンフィア!」


 初手はリルエだった。

 術に凝り、下手に高度な術では、攻撃が通じそうにない。というか、先ほどはそれで防がれていた。


(単純な術で――ぶち壊す!)


 それだけを強く念じる。

 針の太さまで圧縮された衝撃波を、鏡の獣に向けて放つ。矢は、ぎりぎりと耳障りな音を立てて、敵に向かって進行した。

 鏡の獣は、姿のままらしく、鈍足な様子ではあった。攻撃を避けきれず、肩に受ける。

 収束衝撃波の矢は、そのまま貫いてくれる、とまではいかなかったが。鏡面に触れると、そこを削り、ついでにひび割れなども残してそらされ、明後日の方向へ飛んでいく。


(よしっ! 攻撃は通じる!)


 一番恐れていたのは、リルエレベルの魂啼術が、全く通じないという事だったが。それだけはなさそうであり、安心する。

 とはいえ、かなり気合いを入れた術でないと通じないのも事実だ。消耗は激しい。敵の防御が限界を迎えるのが先か、それともリルエが息切れを起こすのが先か。そこまではまだ分からない。


「ちゃちゃっと死んでもらうからね!」


 半ば自分を鼓舞するように、リルエは叫んだ。


「まだ仲間の援護だって残ってるんだから!」


 言いながら、リルエは次の弾丸を装填した。




   ▲▽▲▽▲▽




 手の中の片手剣を逆手に持つ。向かってくる敵と交差しながら、その首を切り落とした。

 と、そこになって気がつく。敵の背後に抜けた後、順手に持ち直し、その体を縦に両断した。こちらに向き返りかけていた体が今度こそ機能停止し、左右にゆっくりと倒れ込んでいく。


「めんどいと言うか、厄介と言うか」


 左右から一体ずつ、さらに敵が迫ってくる。

 ぱっと軽く剣を左手に渡し、一発ずつ頭を貫いてやる。が、そこでまたもやはっとした。躯染めに改造されたこの敵は、どういった機能で体を保持しているのか、明確に体を半分以下にしてやらねば止まらない。

 剣を引き抜く。敵は脂だか何だかが強いのか、武器にひたすら粘り着く。そうでなくとも、筋繊維は常識の範疇を超えて強化されており、刃を鈍らせる。

 抜いた剣を小さく腰に構え、左右から一撃ずつ、撫で切りにしてやる。二体の化生は体を三分割され、その場に転がった。さすがにこれだけ細かくすれば、機能停止してくれる。

 斬りづらく、斬っても武器の損耗が激しい。おまけに、一体一体の強さはともかく、フィジカルは異様に高い。そして――これが一番面倒だが――戦闘継続能力が極めて高い。


「魂啼術主体のリルエや、大体力任せなシバリアならこんなのものともしないんだろうけどよ……」


 人間から改造された化け物は、無数にいる。何体か斬ったところで、また背後から次が来るだけだ。

 わらわらとやってくる、全身が癌細胞に犯され、肉腫の塊みたいになった化け物。かつて人だったらしいもの。ウラル山脈の発掘隊では数が合わないので、ここに来るまでの道中、どこかで追加を補充したのだろう。つまりは、カイゼリンの臣民をだ。

 その点について、特別思うところはない。巻き込まれてかわいそうだとは思うが、それだけだ。何が悪いというのであれば、そもそも弱いのが悪い。

 非道かもしれないし、薄情かもしれない。しかし、そういう世界で生きてきたのだ。もうこの性は変えられない。せめて、とっとと楽にしてやろうという程度だ。

 左手で半ば浮いていた剣を両手で持ち、敵を袈裟斬りにしてやる。

 と、ポポルは舌打ちをしながら、後ろに飛んだ。

 敵を両断すること自体はできた。しかし、剣から伝わるその感触は、斬ったというよりも、むしろ鈍器か何かで殴ったような感触だった。


「あああああぁぁぁぁぁぁ! ウッゼぇぇぇぇぇ!」


 剣を正眼に構え、全力で振る。軽く音も置き去りにする剣は、まとわりつく脂やら肉片やらを散らした。

 化け物と戦う中、もう何度もこの動作をしている。こうでもしないと、剣の切れ味を維持できなかった。いや、そうでなくとも、異様に粘りがある肉や骨を切っている。すでに剣としての機能は、最初とは比べものにならないほど低下していた。


「くっそ。こんなんだったらハンマーでも持ってくるんだった」

「俺らには厳しい相手よなぁ」


 暢気に言うのは、相方のブフーである。

 彼ら二人は、傭兵団の中では珍しく二人一組で扱われる人間だった。単純に気が合う、というのもあったが。

 そもそも傭兵団の前身が奴隷戦士だ。支配者が彼らに高度な連携を取るような真似をさせる訳がなく、たまに集団闘などがあっても、それは本当にただの群れだった。

 つまり、二人の連携は戦争時代以降からのものとなるのだが。ポポルの動きはブフーと驚くほどかみ合った。仕事もたいていの場合は二人一緒に割り振られるほどだ。

 一人ではインヘルトに全くかなわないが、二人一緒なら、もしかしたら戦いになるのでは。そう思ったこともある。まあ、それは本当にただの驕りだったが。

 ポポルは斬撃主体の剣で戦う。ブフーは暗器主体のトリッキーな戦い方だ。こういった、とにかくゴリ押しで攻めてきて、ただひたすら厄介な機能を持っている相手とは、そもそも戦法からして合っていなかった。


「これって、俺らを基準に作られたんだと思うか?」

「あ、やっぱポポルもそう思ったん? 俺も思ったわ。これあからさまに俺ら基準で厄介な相手作ったんやなーって」


 それはつまり、傭兵団の大半にとっても、強くはないが厄介な敵だという事でもあった。

(ボスくらいの力があれば話は別なんだろうけどな……)

 インヘルトの能力は、仲間であるポポルからしても意味不明なレベルだ。それこそ躯染めがいなければ、この程度の集団、彼女一人で軽く殲滅できただろう。まあ躯染めがいなければこんな化け物集団表れるわけないので、あまり意味のない仮定だが。


「剣でまともに戦うなんて馬鹿みたいだな。俺も魂啼術主体でやるか?」


 技量も出力も、リルエほどの能力はない。その上、彼女のような補助具もないため、味方を巻き込まず器用に放つことはできない。これもまた、言っても詮無い事ではあった。


「そう簡単にはいかないっぽいで」

「あん?」


 ブフーは言葉とともに、対面を指さした。

 そこでは、つい先ほどまでどっかんどっかんとうるさいほど鳴っていたリルエの魂啼術が止まっている。

 彼女の援助を当て込んで、右翼は団員を少なくしている。援助がない程度でどうにかなるほど柔な団員はいないが。というか、その程度の団員ならとっくに死んでいるが。しかし、敵を討ち漏らして逆に挟撃されるのは面白くない。シバリアが対処をするだろうが、それにしたって限界がある。無勢なのはこちらなのだから。


「なんだ? サボりか? まさかもう息切れを起こしたわけでもあるまいし」

「そう言うんとはちょっと毛色がちゃうっぽいで。よく見るとシバリアんところも動きが鈍いわ」

「ほーん、てことは……」

「躯染めさんの対幹部用の手駒やろうな。俺らんとこにもすぐ来ると思うで」


 空が鳴ったのは、ブフーが言うのとほとんど同時だった。

 黒い球体が、うなり声を上げて疾駆する。風を切る音とは違う、底冷えのするような声を、球体自体が上げていた。

 球体が、地面に叩きつけられる――事はなかった。球体の一部がばらけて、地面に突き刺さる。

 球体はかなり大きかった。直径で四メートル近いだろうか。解けた一部は、どうやら刃物らしい。それがなんてことのない土に刺さって、固定されている。勢いはかなりのものであり、細く尖ったそれが刺さった程度で止まるものではなかったが。通常とは別の力学が働いているのは疑いない。

 球体が爆ぜるように、一気に開いた。どうやら球体は刃の集合体だったようで、解けたそれが数百、もしかしたら千にも届く剣になる。内側にはもう一つ球体があり、どうやらそこから生えている様だった。

 無数の触手が生えたウニのようないびつな玉だったが。一カ所だけ、それが生えていない場所があった。

 顔がある。黒く変色し、筋も無数に走っているので分かりづらいが。

 その顔には見覚えがあった。ウラル山脈で見捨てた、あの司令官だとかいう男の顔だ。


「ぎ……ざま、ら……ゆる……ざん……!」


 強烈な怨念を吐き捨てるそれに、もはや理性や思考能力が残っているとも思えなかったが。それでも顔は吐き捨てて、血走った目を二人に向けている。


「これが対俺たち用の敵か」

「こら楽しいことになりそうやわ」


 ポポルは持っていた剣を鞘ごと捨てて、予備の新しいものに入れ替えた。ブフーも、いくつかの暗器を外して、無造作に放り投げている。


「ごろず……ご、ろず、ごろず……!」


 球体の言葉が、開戦の合図だった。

 ほとんど壁と言ってもいい刃が、二人めがけて急駛する。

 二人の間に、言葉はいらなかった。いつも通り、いつものように戦う。

 ポポルが前に出る。壁と見間違う刃閃に対して、両手で剣を強く握り、剣を走らせた。


「らぁ!」


 瞬き十閃。まるで刃そのものが増えたかのような速度で振るわれる剣が、壁をいともたやすく切り落とした。

 いや、違う。ポポルは瞬間的に判断した。

 刃は砕けたのだ。自分から。破壊されれば戻ることはない。しかし、最初から細かく分裂するように作られていれば、後は元の形に接着するだけだ。いくら斬っても意味がない。


「気ぃつけぇ!」

「分かってる!」


 斬った分だけの刃、軽く五百はあるだろうか。そのうち半分は、元の形に戻ろうとうごめいている。もう半分は……

 刃が高速で飛翔していた。大雑把に見て、残りの二百五十ほどだろうか。それだけの数の剣が、たった二人に群がり、突き刺そうとする。


「ふん!」

「おりゃりゃっ!」


 これだけの数になれば、避けるも受けるもあまり現実的な対処とは言えない。刃の一つ一つを、ほとんど勘で認識し、切り落としていく。ブフーは全身から暗器の刃を生やして、回転するようにして対処していた。

 包囲に穴の開いた前方に、ポポルは身を低くして投げ出した。それはブフーも同じで、ポポルの丁度真上で、手にダガーを握りこんでいる。

 球体に、剣の突きとダガーの切り払い、両方が同時に襲いかかるが。

 ぎぃん!

 甲高く、金属が擦れ合う音がする。見ると、敵の鎌は束ねられ、赤黒く変色したものが防御に回されていた。どうやら強度は桁違いのようで、二人の攻撃をものともせず受け止めている。


「づうじない……ぞのでいど……ごのわだじにば……」


 ひたすら聞き取りづらい濁音で、球体がつぶやく。


「ちっ!」


 ポポルは舌打ちして、即座に足を真上に蹴り上げた。ブフーが足を蹴り下げており、ちょうど二人で足をぶつけ合う形になる。反動でブフーは上に飛び、ポポルは地面に転がった。そのすぐ後を、二人を追っていた刃の群れが通り過ぎる。

 ぎちぎちと、ひたすら耳障りな音を立てて、元の形に戻っていく。

 ぱっと見た限り、消耗をした様子はない――何百だかからなる刃の一本二本がなくなったところで、その差を実感はできないだろう。

 どれだけの改造をされて生まれた化け物だかは知らないが。恐らく消耗戦は不利だろう。体力か集中力か、どちらかが先に尽きれば、その時点で死ぬ。


「速攻で勝負、やな」

「気が合うねえ」


 言って、ポポルは上唇を舐めた。

 乾いていく感情。理性が危険を訴えている。そう、危険だ。戦争から向こう、久しく感じていなかったもの。


「俺から仕掛ける!」

「あいよ!」


 言って、二人は合流した。今度は横に並ぶようにして、高速で駆ける。


願いよ届き給えグランデ!」


 思考が反応できるギリギリの速度の中で、ポポルは鍵句を唱えた。即座に魂啼術が発動する。

 補助なしでできうる限界にまで範囲を絞って、空間振動波を発生させた。

 二人は基本的に手数が少ない。その能力を飽和させるために、球体の攻撃は基本的に数にものを言わせていた。何百という人間から、全方位から同時攻撃を受けるような心地にさらされて、しかし二人はわずかほども恐れない。

 術は前方、つまり球体の化け物に続く道を開いた。向けられる刃は振動し、弾き飛ばされ、中には砕け散るものもある。残ったのは、赤黒く変色し、パワーを上げた四本のみだった。

 視界から色が消える。脳が処理できないほどの速度に、一足で加速する。

 ポポルは片手で剣を切り上げた。変色刃には、パワー負けするのは先ほどの接触で分かっている。だから、攻撃を弾くための行為ではない。

 変色刃に、剣の腹を滑らせる。勢いのまま、ポポルは足から滑り込んだ。ほとんど転ぶようにして隙間を空けて、二人分、潜り込む余裕を作った。

 転んだ状態から、先に復帰したのはブフーだった。彼は背筋だけで体を爆ぜさせると、宙に浮く。丁度、もう一つの迎撃装置、変色刃の突きを縫うようにして舞う。


「オイシイ所はくれたるわ!」


 言って、ブフーは両足を振った。ブーツのかかと部分には、いつの間にか仕込みエッジが生えている。それで、変色した鎌四本の根元を抉った。超反応で、ポポルを背後から刺そうとしていた刃が止まる。


「これでっ!」


 彼はスライディングしたまま、剣を逆手に持ち直す。走った勢いはまだ死んでいない。

 両手で強く握り、その切っ先を化け物の顔面に合わせて。

 鈍い感触だった。針金の束を切ったら、こんな感触になるのではないか、そう思わせる、堅くまばらな感触。


「死んどけ!」


 勢いは、それだけで死ななかった。ポポルは素早く態勢を立て直すと、思い切り地面を蹴って、さらに裏まで抜けようとする。

 鋼の束が引き絞られる音。そして、無残に引きちぎれていく音。どれも耳に優しくなく、うんざりするほどの異音だ。しかしそれら全てを無視して、彼は足と腹に、さらに力を上乗せした。


「ラぁっ!」


 背面まで通り抜ける。敵を半ばから切り落として、それと同時に、剣が根元からぼきりと折れた。柄だけになったそれを即座に捨てて、三本目……つまり最後の剣を引き抜く。


「ダメ押しや!」


 宙を舞っていたブフーが、服のしたから何かを取り出す。それは組み立てられていき、やがて一本の長剣になった。サイズこそ長剣だが、所詮は組み立てた武器だ。実際のそれと、強度は比べるべくもないだろう。

 真上から球体に降り立つと、彼は思いきり、剣を根元まで突き立てた。攻撃したところで、悲鳴も上がらない。顔らしき部分を裂いたのだから当然だが。

 おまけとばかりに柄を足場にして蹴り、こちらまで飛んでくるブフー。両手で顔と体を守りながら、絶叫した。


「やりぃや!」

「ほんと、おいしいところくれるなあお前!」


 言って、ポポルは剣を持ったまま、両手を掲げた。


願いよ届き給えグランデ!」


 突き立てた絡繰り長剣に、渾身の力をたたき込む。

 剣は内部で爆裂し、ただでさえ損耗が激しかった球体の内部を、ずたずたに引き裂いた。細い鋼線の塊みたいな構造だった化け物は、もうその形状も維持できなくなったのだろう、ばらばらにほどけて、地面に落ちる。

 ぱき……ぱき……と、残骸から、氷を割るような音が聞こえてきて。やがて化け物全体が崩壊を始めた。

 わずかに残った顔の部分が、偶然だろう、二人の方に倒れ込む。その顔は、無念を吐き捨てたそうではあったが。すでに開く口もなく、やがて他のパーツと同じく、砕けて消えていった。


「ぃよし!」

「俺らん勝ちや!」


 両手を挙げて、二人で手をたたき合う。

 勝利の余韻に浸るのは、ほんの数秒だけだった。二人は気を取り直して、戦場を見回す。


「どうする? 他の奴らまだ戦かっとる? 助けに行かなならんかな」

「大丈夫みたいだぜ。向こうも終わるか、終わりかけてる」

「てことは、後は雑魚をちゃちゃっと始末すればええだけか」


 言いながら、ブフーは小さく音を立てながら、踵のエッジをしまった。相変わらず謎な技術だ。

 昔に一度、どうやるのかを聞いた事があるのだが。全く訳が分からず、理解を投げたことがある。天才の技術というのは、得てしてそういうものかもしれない。

 天才。言葉で、ふと気がつく。


「そういやうちの化け物代表はどうしてる?」

「団長の事か?」


 二人して、恐らく戦っているであろう方向を見る。なぜ恐らくかというと、そちらで何が行われているか全く分からないからだ。何かがはじけ飛ぶ光景と、いくらか遅れて破砕音が響いてくる。が、分かるのはその程度だ。


「相変わらず人間やめとるなー」

「ボスと戦う羽目になるなんて、哀れな奴だ」


 相手は躯染め。伝説の怪物であり、恐らく事実として、あらゆる生命体の頂点に立つ化け物。そんなものと比べて、なおインヘルトの脅威は勝る。


「まあ関わらんとこ。団長と勝負になる奴とか相手するのも馬鹿馬鹿しいわ」

「そだな」


 特に反論も思い浮かばず、言葉短かに答える。

 戦況は優勢。幹部も次々と敵対者を倒し、戦線に復帰している。後はもう消化試合だ。

 インヘルトの戦いだけで――というか彼女が勝つだけで、全てが終わる。それを理解して、二人もまた、己の役割に戻っていった。




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