第18話 コロナウィルス
「コココ、ケッコウ、コケッコウ!」
鳥女が朝を告げる。
「ムトウ、ときは至れり!」
鶏の死骸の山が崩れ鬼人ムトウがゆっくりと現れた。
その口にはコウモリがくわえられていた。
「ケッコウよ、人間とはまこと愚かなものだな。このムトウとお前、二柱の
「ココココ、結構、ケッコウ!」
「便乗させてもらうとしよう」
****
2019年、平戌から冷和へと元号が変わる年、新型コロナウィルスが大流行し世界を混乱のドン底に叩き込んだ。
そして現在、知識稔は要請にしたがい休業やら時短、アルコール制限などなんとかやりくりしていた。
座敷わらしがいなければ潰れていたかもしれない。
「パパー!」
娘の知恵が倉庫兼事務所に駆け込んでくる。
知識稔と由美の子供だ。
神木狩りの事件以来、由美は〈わさび菜〉に居つき事実婚となった。
そこで見た目は二階建てでも実は屋根裏部屋だった店舗を改装し新居として正式に結婚した。
そして知恵が生まれた。
「イドがお話したいって」
短い髪の毛をツインテールにした知恵はタブレット端末を抱えている。
イドは知識稔が使わなくなったラップトップパソコンのあだ名で知恵の知育玩具代わりになっている。
「どれどれ?」
イドと接続されているタブレットを受け取る。
そこにはハリウッド版GODZILLAの紹介があった。
その中で敵怪獣MUTOにマーカーが引かれていた。
「イド、なんの話がしたい?」
『日本に昔からいる怪獣ムートーは恐ろしい』
「映画のムートーはフィクションだ。架空の存在で実在しない」
「パパ、ムトウは昔話に出てくるよ」
知恵が口をはさんできた。
「そんな昔話あったか?」
「あったよねぇ、イド」
『蘇民将来の説話に武塔という神が登場します』
表示された説話は知識稔もよく知っている茅の輪くぐりの元になった昔話だった。
蘇民将来と巨旦将来という兄弟のもとに武塔という旅人が宿を借りに来るが裕福な巨旦将来は断り貧乏な蘇民将来は泊まらせてもてなす。
帰りに再び訪れた武塔の神は別名牛頭天王であり巨旦将来の一族を病気で皆殺しにしてしまう。
蘇民将来の側には茅の輪を付けさせ難を逃れさせる。
キリスト教やユダヤとの関係も取りざたされる奇妙な説話だ。
そもそも蘇民将来、巨旦将来という名字が後ろにくるところに違和感がある。
「なるほどムトウは恐ろしい怪獣だ。コロナもこいつの仕業かも」
『中国から来た怪獣も恐ろしい』
「ああ中国が発生源だ。伝染病は恐ろしいな」
鶏と鳥インフルエンザの記事が並ぶ。
2020-2021年にかけて1000万羽近い数が殺処分されている。とんでもない数字だった。
「ケッコウ、コケッコウ!」
知恵がふざけて叫ぶ。
そして
それは鳥の姿をしていた。
ここへ来て誘導されている感が強くなってきた。
イドは音声アシスタントながらラップトップパソコンを介した際は妙な個性を発揮する。
分別くさいのだ。
ユーザーの嗜好に合わせてカスタマイズされるとはいえ度を越していた。
だからこそ知恵のお気に入りなのだが、知識稔には原発事故のあと由美(コガネ様)がこのパソコンに執着していた様子がひっかかっていた。
「新型コロナウイルスはいつ終息する?」
そしてイドはスペイン風邪の記事でそれに答えた。
第一波では感染率は高いものの死亡率は低かったのにウイルスが変異して第二波、第三波と感染者数は少ないのに死亡率が高まっていった。
一般的に感染が広まれば弱毒化するというが根拠はない。逆に感染率の低さが強毒性につながるのだろうか?そんなはずはなかった。
「つまりパンデミックといいながらも、さざ波ていどの日本は危ないということか?」
イドはデング熱の記事で回答した。
抗体依存性感染増強というワードが目を引いた。
0.1%にも満たない死亡率がこれで40%から50%に跳ね上がるのだという。
新型コロナウイルスは超スピードで変異していて免疫回避する株も現れている。しかし感染率とトレードオフとなりやすい。もちろん免疫回避して感染率の高いデルタ株も出現している。
しかしさらに重症化率の高い変異となるとかなりハードルは上がるはずだ。
もっとも今回初使用となる人類の切り札mRNAワクチンを凌駕したとき何が起きるのか誰にもわからない。
ワクチンが普及したところで大波乱が待っているのかもしれなかった。
イドは終息の時期を答えなかった。
もしかしたら致死率の高い日本株が生まれる?
知識稔は嫌な予感がして質問の方向を変えた。
「つぎの変異型コロナウイルスの流行はいつ?」
『来年』
「すごい自信だな」
イドは明確に答え知識稔は暗澹たる気持ちになった。
本当に一年後コロナウイルスは人類に大打撃を与えるのだろうか?
「イド、1年後の根拠を教え……」
『コガネ様の御告げです』
かぶせ気味に答えたイドにイラッとした知識稔であった。
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