第17話 共有夢
阿豆佐由美は自分の人生を追体験していた。
それは赤ん坊のころから始まる不思議な自分史だった。
かたわらには常に知識稔の姿があり自分を守ってくれていた。
しかしなぜ彼が自分の守護霊なのかさっぱり意味がわからなかった。
(ああ、それはね自殺をはかった罰だよ。人生の敗者復活戦でもあるし)
ふいに童女コガネが現れ事情を説明したがやっぱり訳がわからなかった。
蛇神カガチとその配下の邪霊たちが不運の事故、事件に巻き込もうとするのを知識は戦って戦って戦い抜いて守り通してくれた。
当時の由美にほとんど霊感はなく初めて知る事実だった。
知識のエスコートヒーローぶりに由美の秘めた恋心が熱くなった。
そして自分でも目をそむけたくなる時代がやってきた。
壮絶なイジメの対象となったのだ。
外見の痣から最初は容姿をいじるものだったのがしだいにエスカレートしていき中学にはいってからは肉体的暴力、精神的苦痛をともなうものになっていた。
カガチたちによる多少の誘導はあったものの後半はいじめっ子たちが自主的に行ったものだ。
「負けちゃだめだ。くじけないで。あなたは強い人だ。この先いいことがいっぱい待ってる。希望を持って!」
知識が苦悶の表情で由美を励まし続ける。
だが由美の心はだんだん弱っていきついには自殺を考えるようになってしまう。こっそり遺書を書きカッターナイフを手にする。
「自殺はダメだ! ダメダメーッ!」
知識は絶叫していた。
「生きていたらいいことが必ずあるから! 楽しいことも美味しいものも、素敵な人も君を待っている!」
どこかからかカガチの哄笑が響いてきた。自殺した知識が自殺を否定して必死になっているのが可笑しいのだ。
いつの間にか知識の首には縄がかけられ絞まりはじめていた。
知識が自殺をやめさせようと声をかけるほど輪が縮んでいく。
「それに……死んだら……俺が悲しい……」
(助けてあげて!)
(これ罰だから。それに苦しめているのは由美自身だよ)
訴える由美にそっけないコガネだった。
ためらった末に自殺を思いとどまる由美を見て知識は自殺がどれだけ愚かな行為なのか思い知らされていた。
それからもたびたび自殺をはかろうとする由美に血を吐く思いで声をかける知識だった。
そして知識もまた弱りはじめていた。
その日、なかなか死なない由美に対して業を煮やしたカガチは知識の弱体化を見て直接手を下すことにした。
宮前公園付近を徘徊していたヤマカガシに憑依したのだ。
ヤマカガシの毒はマムシの4倍ほど強力ともいわれ血清もごく少量しか存在しなかった。
なぜか由美は暗くなってからは通らない公園から鎮守の森を通って帰宅しようとしていた。
邪霊に阻まれ知識は由美を助けることができなかった。
それに霊体では生物に対抗することは難しかった。
助けを求めてどこかに人はいないか探す知識の目に飛び込んできた光景。
それは首を吊って死んでいる自分の姿だった。
「俺のバカ野郎! 死んでいる場合かよ!」
自分を殴りつけた。
その瞬間、知識の霊体が肉体に重なり合った。
「ぐえっ!」
知識はもがいた。
そのばたつく脚を支える者がいた。
由美だ。
「自殺はダメー! 生きていたらいいことが必ずあるから! 楽しいことも美味しいものも、素敵な人もあなたを待っているから!」
奇しくもそれは知識が由美に呼びかけていた言葉そのものだった。
(声、とどいていたんだ……)
その由美の後ろから這い寄るヤマカガシ。
カガチに憑依された蛇は由美の足首に咬みつく寸前だ。
(復活! 知識殿ここまでよくやってくれた!)
落ち武者が首吊り縄を切断した。
知識は落下しヤマカガシはその尻に潰されてしまった。
カガチはするりとヤマカガシから抜け出したがその前に大神霊コガネが立ちはだかった。
(わたしの足元で好き勝手やってくれたわね)
蛇体のカガチを踏みつけた。
(どうしてくれようか?)
(どうかお許しを! なんでもします!)
(そうね、まずは呪いをときなさい。次に罰として迷惑をかけた分あの男の守護をなさい)
(ははーっ!)
由美から痣が消えていった。
そしてカガチは知識稔にからみついた。
****
知識は目を覚ました。
目の前には由美が寝ている。
あれから店に連れ帰り座敷で休ませたのだ。
閉店後様子を見に来たがいつの間にか眠ってしまったらしい。
由美が目をあけた。
視線がからみ合いはずせなくなった。
由美が手をのばし知識が握りしめた。
二人の後ろでホソデとナガテ、そして童女コガネが祝福の舞を踊っていた。
「
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