第15話 知識稔
知識稔はたまに夢の中でこれは夢だと認識することがある。
それはハイヤーセルフや神霊が関わっているときだ。
首吊り用のロープを持って宮前公園をうろついている自分にげんなりする。
このあと手ごろなイチョウの枝にぶら下がるのだ。
(あれってコガネ様じゃニャい?)
(コガネ様怒ってるポン)
ヒソヒソ話をしているのは小太りの少年と振り袖姿の少女だった。
童女のコガネが枝の上に立ち、まさに知識を見くだしていた。
知識は足場にしていた旅行鞄を蹴りとばしぶら下がった。たちまちもがき苦しみ失禁する。
童女コガネは知識の魂を引っこ抜き大神霊コガネの前に正座させた。
コガネはカウチソファに肘をかけて寝そべっている。
「死ぬほど辛かったか? しかしな自ら命を断った者には死ぬより苦しい罰が待っているのだ。残念だったね」
知識はコガネの威光に顔も上げられず額を床にこすりつけるしかなかった。
「さてどんな罰がよいかな。定番は自殺する前の苦しい時を永遠に繰り返す
童女が耳打ちしてきた。
「ほう守護霊とな。ふむ、よかろう」
コガネは体を起こして知識を睥睨した。傍観者のホソデとナガテまでも威圧感に平伏してしまう。
「罰を言い渡す!」
知識稔は緊張にギュッと縮こまった。
「阿豆佐由美という赤子を守れ!」
予備知識もなにもなしだ。いきなり阿豆佐由美のもとに放り出されてしまう。
そこは業火に包まれた家の中だった。
ベビーベッドの赤ん坊にヤマカガシのような蛇が巻きついていてその周囲を邪霊たちが踊り狂っていた。
「た、頼む。この子を助けてくれ!」
落ち武者のようななりの男が肩を掴んできた。
見れば他にも侍姿の男や薙刀を振り回す勇ましい女の姿があった。
しかし邪霊たちは強く苦戦していた。
落ち武者は刀を知識にあずけると消えてしまった。
(まず蛇を追いはらうんだ)
どうやら落ち武者は消えたのではなく日本刀になったようで刀を通じて声が届いた。
素手で触るのは怖いが手にしている刀を赤ん坊に向けるのはためらわれる。さりとて霊体の自分には物を触ることができない。
「しっ、しっ!」
結局刀身を持って柄で取り除こうとする。蛇は鎌首をもたげ柄頭から峰を伝って知識の指に咬みつこうとする。
「ひーっ!」
慌てて刀を振り回して蛇を遠くに捨てる。
尻もちをついた間抜けな格好にホソデとナガテが笑い転げる。
「むかーっ」
夢は記憶をなぞっているらしく知識に行動の自由はなかった。
蛇を取り除かれた由美が大きな泣き声をあげはじめた。
それを聞きつけた消防隊が突入してくるまでにさして時間はかからなかった。
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