第11話 形代


(……敵……なのか?)


 ぼんやりとした意識が数瞬だけ鮮明になる。

 相手は水干に烏帽子という出で立ちだ。

 切れ長の目をした美少年だがまともな人間ではなく、まぎれもない妖気を発していた。


「様子を見に来て正解かも。かかる荒御魂あらみたまと行き合うとは幸わいなりしや」


 少年は狐目を細めた。


「まろが下僕となれ」

「不遜と知れ」


 一触即発のところに転がり出た丸い物体があった。

 シン・マルメロだ。



 ****



「なんで人間がいるんだ。生きていられるはずがない! 冗談だよな知識、いたずらなんだろ」


 スタッフがモニターに群がり、野分はパニックになりかけていた。


「あー、えっと人間じゃありません。背景からすると手のひらサイズ、一寸法師といったところですね」

「それはどういう……」

「えーAR、そう拡張現実のソフトが手違いで起動してしまったようです」


 知識は苦しい言い訳をした。


〈あれをやっつけなさい!〉


 逆らいがたい威圧感が知識の背中を叩く。

 反射的にバネ仕掛けを発動させる。カートリッジ式のゼンマイが勢いよくパージされ人影に命中した。


「あなや!」


 一寸法師は消え人の形をした紙切れがひらりと舞った。

 その映像を最後にマルメロからの応答がなくなった。


形代かたしろだと。何者かが式を打ったのか?)


 知識稔はVRゴーグルごしの出来事に

尋常ならざる存在を意識した。


 ****



〈来よ、奥羽坊〉


 丸い物体から呼ばれた。

 奥羽坊と呼ばれた存在は何の疑問も抱かず球の内部に入った。

 そこには通路があり通路の先にもやはり似た球体があった。

 依代にしてもよかったがさらにそこから通路がのびていた。

 長い長い通路を抜けると不可思議な空間が広がっていた。

 明滅する信号が縦横無尽に駆け巡る空間だ。

 奥羽坊と呼ばれた存在は疲れ果ててしまい、しばらくここで休むことにした。

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