第3話 東日本大会戦②


「もはや九頭竜クトゥルーの覚醒は避けられぬものかと存じます」

「であろうな……」


 カラス天狗が報告し赤ら顔の大天狗が鷹揚にうなずいた。

 すでに前日、前々日と九頭竜が身じろぎして地震が起きていた。

 幸いにして津波は起きなかったがこれは怨霊軍団の罠だった。

 次に地震がきても津波は来ない、大丈夫だと人間達は油断するだろう。


「あとは目覚める首の数。せめて三つまでにとどめることができれば我らが勝ち」


 大天狗は立ち上がった。

 身の丈30メートルはある巨人だ。


「して天原あまのはらの動向は?」

「はっ、残念ながら天津神あまつかみの皆様の助勢は得られぬものかと……」

「是非なし。かくなるうえは奥羽坊の底力を見せつけてくれよう」


 大天狗は背中の翼をひろげた。

 その翼のもとには数多あまたの神々が集っていた。

 地主神から屋敷神、家神にいたるまで大小様々な神が臨戦態勢だ。

 その中にはナガテとホソデの姿もあった。


「クトゥルーってなに?」

「さあ聞いたことがない」


 ホソデが問いかけナガテが首をかしげる。


常世神とこよがみのことじゃよ」


 隣りにいたまるで松の盆栽のような老人が答えた。


「海の彼方にあるという常世の国の神……実在したんだ」

「作り話かと思っていたわ」

「フォッフォッホ、まだ海岸線が遥か彼方にあった時代、天神地祇てんじんちぎがこの世に現れる前の話じゃ。世界を支配していた龍族の末裔といわれておってな」


 松の老人が水平線を眺めて語った。


「いまは眠りについておるがたびたび目覚めては災害をもたらしよる。じゃが今回ばかりは牛頭ごずどもが無理矢理たたき起こして大災厄を引き起こそうとしておる」

「止めることはできないの?」

「〈くだん〉が予言しちまったから回避不能じゃね」

「難しいがそうとも言えぬよ」


 そう告げる松の老人はホソデとナガテに向き直った。


「予言を外さぬという〈件〉がニ柱いるというのは知っておるか?」

「え、そうなの?」

「あ、わたし聞いたことがある。たしか人の顔に牛の体をした〈件〉が現れるとき牛の顔に人の体をした〈件〉が同時に出現するって」

「牛の顔に人の体っておいおい牛頭そのものじゃん」

「さようもう一柱の〈件〉こそ地獄の獄卒、牛頭のガモン。これを倒すことができれば予言は成就せぬ」

「ようっしー、やってやるぜ!」


 張り切るナガテだった。


「フォッフォッホ、元気のいい豆ダヌキじゃ」

「タヌキじゃねぇよ!」


 松の老人はホソデを見て、


「そちらは飯綱いづなの姫のようじゃがまさかこの坊主もか?」


 ホソデは頷き、


「申し遅れました飯綱のホソデとこれは眷属で窮奇きゅうきのナガテです」


 紹介されてナガテは背中に翼をひろげた。


「タヌキに羽があるかよ」


「フォッフォッホ、これは失敬した。儂は松原のネビキという。そして儂の眷属じゃ」


 そしてネビキは背後にひかえる松の盆栽一族を紹介した。


 水柱が何本も上がり轟音が大気を激しく揺らした。


「はじまった」


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