第2話 東日本大会戦①

 年は明けて2011年(平戌23年)3月9日。


 公園で砂遊びをする子供たち。

 公園の片隅にある古びた祠から少年が浮き出るように現れた。

 タレ目で優しい笑みをたたえている。

 ふっくらした体型とタヌキ顔でたちまち子供たちに囲まれる。


「神兄タン!」

「兄タン、兄タン腹踊りして!」


 子供たちがはしゃぐ。

 少年がニコニコとひょうきんに踊りだすと笑い転げて狂騒状態となってしまう。

 楽しい時間が過ぎふと少年は空を見上げた。


「神兄タンどうしたの?」

「こちらへ」


 少年は皆を手招きした。


 子供たちが参集したタイミングで地震が起きた。

 悲鳴をあげ神兄タンにしがみつく子供たち。


「大丈夫、怖くないよ、すぐにおさまる」


 11時45分 三陸沖 M7.3。


 ほどなく地揺れは小さくなり静寂があたりをつつんだ。


「絶対に海に近づいてはいけないよ、明日も明後日も……約束してね」


 神兄タンを見上げてこくりこくりとうなずきかえす子供たちだった。

 神兄タンは立ち上がりバイバイと手を振りそして海の方角へ歩き出した。

 子供たちは反射的に手を振りかえし、急にさみしい気分になってその手を止めた。


「早く帰って来てねー!」


 神兄タンは振り返ることなくただ手を振って消えていった。


 **


 赤い振り袖を着た少女が大きな屋敷から出て行こうとしている。

 開け放たれた門の外で少年が佇んていた。

 神兄タンと呼ばれていた少年だ。少女を待っていたようだ。


「ナガテか」


 少女が少年の名を口にした。


「いいのかホソデ?」


 少年ナガテが少女ホソデに確認した。


 ゴウッと熱風が押し寄せた。

 少女が今しがた出て来た屋敷が業火に包まれている。

 現実の光景ではなく未来視である。


 ホソデでの見開かれた眼に炎が映る。


「座敷童子のいなくなった家は……」

「言うな」


 ホソデは振り切るように視線をはずした。


「この家にはじゅうぶん尽くした」


 ホソデは門をくぐりナガテと合流した。

 そのタイミングで地震が起きた。


 2011年(平戌23年)3月10日

 6時24分 三陸沖 M6.6。


「急ごう、もう残された時間は少ない」

「うん」


 最後にホソデは屋敷を振り返りそうになりぐっとこらえてナガテの手を握った。


 **


「今日も地震あったね」

「でも津波が来なくてよかったね」


 居酒屋のホールスタッフがカウンターを拭いている店長を見る。霊感らしきものがある店長はかねてから津波を予言していたのだ。

 津波注意報は出ていたが被害はなかった。

 これが油断を招く結果となるとはこの時は誰も予想していなかった。


 ただ店長の知識稔ちしきみのるは漠然とした嫌な予感を抱えていた。

 知識稔の予言は霊感ではなく上位世界の自分、いわゆるハイヤーセルフとの交流から得られる情報であった。

 そのハイヤーセルフはずっと警告を発し続けていた。


「昨日のが本震で今日のが余震みたいだけど、もし全部が前震でこれから本震が来るとしたら……」


 知識稔は警告から耳を塞ぎたかった。




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