18杯目 スラウェシ・ママサとしろっぷ。

今日も今日とてお店を開いていると珍しいお客さんが来た。


「よっ、凛ちゃん遊びに来たぜ」


「玲斗さん、こんにちは。自分の店は休みですか?」


「そうそう、まぁここに来たのは面白い豆を仕入れたからお裾分けに来ただけなんだけどな。焙煎も3日前にしてきたからついでにこれ淹れてみてくれよ」


「スラウェシママサですか」


「そうそう、珍しいだろ?」


「確かにあんまり仕入れてるところはないですね……」


私は袋から豆を取り出しながら話す。


「お代はいくらです?」


「たかが100gだ、要らねぇよ、今試飲して美味かったら隼人と飲んでくれ」


「それならお言葉に甘えて」


私は玲斗さんに珈琲を出す。


「どうぞ、スラウェシ・ママサです」


「お、どうも。じゃあ早速」


「どうです? 私の珈琲は」


「あぁ美味い。シナモンっぽい複雑な香りに優しいコクと苦味がしっかり引き出されてる。さすが世界一バリスタ、翡翠雪の弟子だな」


「なんでそれを……」


「お、やっぱり当たってたか。この前お邪魔した時に技術より気持ちなんて言ってただろ? 昔同じ事を言う女がいたからもしかしてと思ったんだよ、弟子がいるって言ってたしな」


「師匠と知り合いなんですか?」


「知り合いというか一回大会で惨敗してな。俺がハンドドリップをせずにバリスタなんてやってるのもあの女に勝つためさ」


「なるほど……」


「まぁ世界一のバリスタの弟子ならここまで上出来きを淹れられるのも当然だよな」


玲斗さんは笑ってそう言った。


「まぁ、弟子にも勝てないなら俺はまだまだだってことだな」


「バリスタとしての試合なら勝てませんけどね、私エスプレッソもそこまで深く踏み込んでない上にシグネチャービバレッジ作れませんし」


「謙遜するなよ、シグネチャーの方はともかくあんたのエスプレッソの腕は相当高いと思うぞ?」


「なら良かったです、そういえばあの時なんで世界大会にも出てるバリスタがただの喫茶店の店主と勝負なんて仕掛けてきたんですか?」


私は気になっていた質問をぶつけてみた。


「嫉妬だよ嫉妬、みっともねぇから話したくなかったんだけどな……」


「嫉妬?」


「あぁ、俺の淹れた珈琲で落とせなかった隼人を珈琲で落とした女に嫉妬しただけさ」


意外だった。彼が関係していたなんて。


「はやとくんを落とせなかったって……」


「いや、そういうのじゃねぇから! あいつが俺の珈琲でハマらなかったのにあんたの珈琲で珈琲にハマってたからって話だからな!?」


「あ、あぁ! そういう事ですか……やっぱり気持ちですよ」


「なんかあの女思い出して腹立つな……まぁ、ご馳走様、あんたと二人で話してたなんて言ったら霞になんて顔されるか分からねぇからそろそろお暇するわ」


「私巻き込むのやめてくださいね」


「冗談だよ冗談、次は霞と来るわ。ご馳走さん」


そう言って玲斗さんは店を出ていった。

今日の話は少し面白かったので彼に話すことにしようと心に決めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜今日の珈琲〜


スラウェシ・ママサ


苦味 ☆☆☆☆

酸味 ☆☆☆

甘味 ☆☆

コク ☆☆☆☆

香り ☆☆☆☆☆


・トラジャと並ぶもうひとつの幻の珈琲。

・トラジャより店頭で見ないのでこっちの方が幻感ある。

・香り高い珈琲でバランスの良さが特徴。

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