15杯目 ライバルとしろっぷ。後編

勝負に乗ったとはいえ、珈琲を無駄にしたくはない。

私はまず豆を選ぶ。

ストレートにするか、ブレンドをするか。


珈琲は嗜好品だ。

故にストレートでは好みが別れる。

怜斗さんならバランスの良いブレンドを作るだろう。

そして私なら恐らく一票は確実に獲得できる。


「これかな……」


私は3種類の豆を取り出す。

チラッとあっちの方を見るともう既にミルで挽いていた。


私もミルで豆を挽きドリップの準備をする。

私は挽いた豆を3種類に分ける。


そして一種類ずつドリップして全て違うカップに入れ、提供する。


「おぉ! きたぁ!」


「良い香りね」


「ありがとう二人とも。頂きます」


三人は二つの珈琲を飲み比べる。


「おぉ、甲乙付け難いぞ……」


「…………」


「さぁ、判定してくれ三人方、どっちが美味いかな」


ふと私は思った。

この人は何故大会で優勝出来るほどの腕前を持ってるにも関わらず、ただの喫茶店店主の私に勝負をもちかけてきたのだろう。


「じゃあ、一斉に赤か青かを指させば良いんだね」


「じゃあ行くぞ〜、いっせーのーでっ!」


「待って、霞、あなたの珈琲も一口頂いてもいいかしら」


そう言って霞を華蓮が止める。


「良いけど味は同じだろ?」


「…………」


華蓮は黙って霞の二つの珈琲を飲む。


「……さすがね。良いわ、投票を始めましょう」


――結果は。

霞が赤、彼と華蓮が青だった。


私は青だった。

私の勝利だった。


「ふぅ……」


「……さすがだなぁおい」


怜斗さんは華蓮に聞いた。


「遠藤、何で青に入れたか教えてもらってもいいか?」


「そうね……味は確かに赤の方が美味しかったわ。とても丁寧なブレンドで『誰が飲んでも』美味しい」


「…………」


「でも青は恐らくストレートだった。普通プロの二人が好みの別れるストレートを提供する訳が無い。だから霞のを飲ませてもらったのよ、そしたら案の定、味が違った。」


「つまりなんだ?」


「私は味ではなく客の一人一人を思うその心意気で評価したということよ」


「味の勝負をしてるんだが?」


「あら、私が聞いたのは勝負であって評価対象は聞かされていないのだけれど」


怜斗さんはため息をついて片付けを始めた。


「これはお医者様に1本とられたぜ」


「もし私が凛の性格を知らなかったらあなたの勝ちだったのにね」


「いーや、それでもし勝負に勝てたとしても俺は負けてるのさ」


「…………?」


そう話す2人の隣で私は彼と話す。


「凛ちゃんはなんでそんな提供の仕方をしたんだい? 華蓮さん以外気づかないのも知っていただろうに」


「うーん、どうせ珈琲飲むなら美味しいの飲んでもらいたい……から?」


「その人に合う珈琲を提供したわけだ」


「そゆこと! はやとくんの好みは知ってたからね! あと師匠にも『技術より先にまず気持ちを込めろ』って言われてたから!」


「心ねぇ……技術だと思うぜ俺は」


怜斗さんはそう言う。


「まぁ技術ももちろん大事だと思いますけど……でも私ははやとくんの好みの珈琲を淹れたからズルと言われればズルかもしれない……」


「いや、そこは気にすんな。隼人の好みは俺も知ってた」


そう言う怜斗さんに霞はフォローを入れた。


「わ、私は隼人の珈琲の方が美味かったぞ!」


「おう、霞ありがとな。別に落ち込んじゃいねぇよ」


「ぬう……」


「凛ちゃんはトーナメントとか出ないのか?」


「師匠に勝てるくらいになったら出ようかと……」


「師匠師匠ってどんだけ凄いんだよあんたの師匠」


「女の人なのにすっごいの! ペーパードリップもバリスタとしても誰よりも珈琲淹れるのが上手いの!」


「誰よりもねぇ……俺も俺の中で誰よりも上手い人に勝つために大会に出てんだ。だから1度挑戦してみるのも大事だぜ」


「……そっか、そうだよね。うん! ありがとう!」


その後3時間くらい話してその日は終わった。























結局怜斗さんが何故勝負なんて物を持ちかけてきたのかは分からなかった。

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