14杯目 レイトとしろっぷ。 【番外編④】

「肌寒くなってきたな……」


朝の秋空を眺めながら俺は豆を焙煎していた。



俺は焙煎士兼バリスタだ。


俺がエスプレッソを使ったバリスタをやっている事には理由がある。本当はペーパードリップの方が好きなのだ。


それは3年前、俺が21の時だった。


18から焙煎士兼バリスタとして働いていた俺は

興味本位でバリスタの非公式大会に出た。


俺には才能があった。

バリスタとしての才能があった為にその大会ではあっさりと決勝に登れた。


この大会での決勝は1vs1での5人の審査員からの票を多く獲得できた方が勝ち。と言うルールだった。


相手は白い髪の女だった。

そいつはすごく眠そうにしていて審査員に


「ふぁぁ……次の開催はもう少し遅い時間に頼むよ」


なんて言って話していた。

こいつ、完全に舐めている。そう思った。


完膚なきまでに叩き潰してやろうと思い、

その大会で唯一本気で挑んだ。


だが。


結果は5対0。

女の完勝だった。


試合が終わった後に俺は女に話しかけた。

今思えばあの時の俺はダサかったな。


「おまえ……細工しただろ?」


「おや、負け惜しみは辞めて欲しいな」


「試合始まる前に親しげに審査員と話していたよな?」


「それと細工に何か関係が?」


「……俺にこの試合で出したエスプレッソとシグネチャービバレッチを出してみてくれよ」


「……そうすれば君は満足するのかい?」


「ああ」


「僕の得意はペーパーなんだがね……仕方ない、じゃあおいで」


その女に連れられて高層マンションの一部屋に来た。


「ここに住んでんのか……?」


「いや、知人からの借り物さ。僕の住んでる場所は新潟だからね。そこで座っているといい」


女はそうしてエスプレッソとシグネチャービバレッジを作って俺に提供した。


俺はそれを見て、飲んで思った。


豆の雑味が全くなく、美しいクレマが光り輝くエスプレッソの天才的な技術と、斬新かつ味も完璧な独創的なシグネチャービバレッジ。


こいつはレベルが違う、化物の領域だ……と。


「これで君が僕に負けた理由が分かったかい?」


その勝ち誇った声に腹が立った。


「馬鹿にしてんのか!」


「まだ若いね……僕の弟子みたいだ。そう激昂しない事だ。」


そう言って俺の正面に女は座った。


「君は天才的な才能を持っている。そのまま磨けばもっと輝けるだろう。しかし天才が故に足りていないことがある。」


「…………」


女は続けて話した。


「それはね、『心』だよ。君は技術はある。しかし珈琲や審査員に対する『気持ち』が足りていなかった」


「…………ッ」


「それが僕に負けた原因さ」


技術ではなく心。

それで負けたと言われたのが屈辱だった。


「俺はお前を『技術』で越えてやる」


「ふふ、心は関係ないことを証明したい。って所かな 」


「あぁ、そうだ。心なんて関係ねぇ」


「じゃあ楽しみにしてるとしよう。次は『世界』で会おう、少年」


その女を後々調べてみたら公式大会世界最年少のバリスタの世界チャンピオンだったことが分かった。


俺はこの女を超えることを目標に今もバリスタとして活動している。














―――努力と技術が全て。

そうあの女に分からせるためだけに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る