10杯目 ライバルとしろっぷ。前編


夜、家のチャイムが部屋に響く。


「はーい」


私が玄関のドアを開けると何かが私に突撃してきた。


「りーーーんーーー!」


ぼすっと私の胸元に小さい頭が乗る。

霞だった。もし出るのが私じゃなかったらどうしてたのだろうか。


「霞、私にもちゃんと連絡してよね」


「いや〜わるいわるい」


「お邪魔しまーす」


そう言って玄関から男性が顔を出した。


「君が凛ちゃん?」


「どうも、はやとくんならリビングなのでどうぞ上がってください」


私はそう言って2人を家に上げた。


「よぉ隼人 、久しぶり 」


「久しぶり怜斗」


「なぁ凛、凛」


「どしたの?」


「お前の彼氏マジのイケメンなんだな、俳優みたいじゃねぇか」


「いいでしょ」


「れ、怜斗も負けてないぞ」


霞はその後すぐに思い出したかのように口を開いた。


「あっ、そういえばあともう1人来るぞ」


「ねぇ、それ先いってくれない!?」


その直後にチャイムが鳴る。


「あの子は……はーい」


玄関を開けた先に居たのは『私のよく知る』

身長が高めの白衣を着た赤髪の女性だった。


「久しぶりね、凛」


「華蓮! 久しぶり!」


「霞に呼ばれたからお邪魔するわ」


「いきなりもう1人来るなんて言うからびっくりした」


「やっぱりあの子何にも言ってなかったのね……私が連絡しておくべきだったわ」


そうして全員が集まった。

私以外の全員はコミュニケーション能力が高いのですぐに馴染んでいった。

私は料理をしながらみんなの会話を聞いていた。


「華蓮さんは何の仕事してるの?」


「このこと同じ病院の精神科医よ」


「華蓮先生は凄いんだぞ!」


「すっげぇ稼いでそう」


「そこそこよ、そういうあなたは何をしてるのかしら」


「あぁ、俺は自宅で焙煎してバリスタとしてドリンク提供したりもしてるよ」


「凛と同業者なのね」


「まぁそういうことになるな」


「なぁみんな酒飲もうぜ酒っ!」


「この家お酒飲む人いないからお酒ないけど霞さんが持ってきたの?」


「えっ、隼人酒辞めたの? その歳で?」


「うん、凛ちゃんと会ってから珈琲にハマってさ〜」


「へぇ……」


「あっやべっ……お酒忘れた」


「かすみぃ……」


「そう言うと思って家から持ってきたわ」


華蓮は袋からワインと日本酒を取りだした。

その瞬間男性二人が声を出す。


「なっ……おいおい……あんた持ってくる場所間違えてるぞ……」


「このワインってスクリーミング・イーグル……?」


「あら、気が合いそうね。良く海外の友達が色んなワインを贈ってくれるんだけどそれのひとつよ」


「この医者ホンモノだ……」


「医者と言われるのはあまり好きじゃないわ、せめて遠藤と呼んでちょうだい。あなたも焙煎士なんて呼ばれるの嫌でしょう?」


「確かにな」


「華蓮さんはワインが趣味なの?」


「まぁそんな所ね。これ以外に使うお金もないし」


「そう言えば遠藤は彼氏はいないのか?」


「華蓮は可愛いのに彼氏作らないよなぁ〜」


「…………いないわ。忙しくて作れないの」


そう言った華蓮は少し寂しそうな顔をしていた気がした。


「まぁお医者さんは多忙だもんね」


「そうね……」


華蓮はワインを少し飲んだ。


「お待たせ致しました。『ラムチョップソテー』と『竹輪の蒲焼』でございます」


「凛、さすがね」


「お医者様に喜んでいただけるとは光栄ですっ」


「もう、あなたまで……」


「なぁ、凛ちゃん」


怜斗さんが私に声をかける。


「はい?」


「R cafeの店主だろ? 最近口コミでも噂だぜ。超絶美人が超絶美味しい珈琲を淹れるってな」


「あはは……詐欺みたいな口コミじゃないといいんですけど……」


「……今から勝負しようや」


「……え?」


「『同業者』がどれほどの腕前なのか見てみたくてな」


その何故か上からな態度が私は気に入らなかった。


「いいですよ、やりましょう」


「凛ちゃん……?」


「おっ、積極的だねぇ」


「勝負と言ってもルールは?勝敗はどうやってつけるのかしら」


意外にも一番乗り気なのは華蓮だった。


「それは……」


「ロースト豆自体はあるんだろ?」


「ええまぁ……」


「じゃあお互いが好きな豆を使ってドリップする。そして出来たものを赤と青のシールを貼り、どちらか分からないようにして提供する。ここにいる3人中2人以上票を獲得した方の勝ち。エキシビションとしては十分だろ」


「豆は指定じゃなく何でも良いの?」


「あぁ、力を見たいんでな」


私はかなり舐められていた。


「面白そうだな! それ!」


「ええ、楽しみだわ」


こうして私と怜斗さんの珈琲対決が始まった。


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