9杯目 ケニアとしろっぷ。
今日も仕事を終えて帰ろうとすると電話がかかってくる。
「もしもし」
「あー隼人?急で悪いんだけどさ」
声の主は友人の怜斗だった。
「?」
「明日、お前の家行くわ」
「今日の珈琲はケニアです」
彼女は僕の我儘で毎晩珈琲を淹れてくれる。
彼女は美人で性格も良く僕には勿体ない位の人だ。
「どんな感じの珈琲なんだい?」
「ケニアは珈琲豆の中でも特に焙煎度で味がガラッと変わる物の一つなの。浅煎りは香りと酸味が強く出て深煎りは力強いコクと甘味が全面的に出てくるの」
「今回使うのは?」
「今回使うのは中深煎り。コクと甘みが強いけど心地よい酸味もあるんだ」
と言いながら彼女は淹れた珈琲を僕に持ってきてくれる。
「どうぞ。ケニアです」
「ありがとう。いただきます」
僕は珈琲を口にする。
以前はこの時間だとお酒を飲んでいたが今ではすっかり珈琲に変わってしまった。
「うん すごく個性的な香りとすごく重厚なコクが美味しいね」
「でしょ! ケニアはスペシャリティ珈琲の中でも最近注目を集めてるの!」
珈琲の話をする時の彼女はとても楽しそうだ。
僕はそんなに彼女を見るのが好きだった。
「凛ちゃんは本当に珈琲が好きだね」
「うん! 大好き! ……あっでもはやとくんの方が好きだよ!?」
珈琲と僕を比べる程度に珈琲が好きなようだ。
「珈琲淹れて6年って言ってたけど高校生の時からなの?」
「うん、私には師匠みたいな人が居たんだけどね、その人からいっぱい教わったの!」
「その人は今も会ってるの?」
「ううん、外国に旅に出ちゃった」
「なかなかアクティブな人だね……」
「そのうちはやと君にも紹介したいな〜」
「僕も会ってみたいな」
僕は皿を洗いながら思い出す。
「あっ」
「?」
「明日さ、夜友達が来るらしいんだよね」
「へぇ! だれだれ!」
「小学校からの幼馴染みなんだけど、ここに住んでること教えてなくってね」
「どうやってくるの?」
「それが彼女が行きたいって言い出したらしくて彼女はこの家の場所知ってるんだって。凛ちゃん心当たりない?」
凛ちゃんは若干考えて
「あぁ」
と言う。
「うん。心当たりしかない。多分男の人の名前『怜斗』さんじゃない?」
「あれ?知り合いなの?」
「怜斗さんとは会ったことないけど『彼女』の方は知り合いだよ」
「なるほどね、お互いの友人が付き合ってるって面白い話だね」
「確かに! まさかはやとくんの友達が彼氏だったとは……」
「お酒とか買っておいた方がいいかな?」
「いや、いいよ〜。多分かすみ……彼女が買ってくるから。軽く料理だけ用意するよ」
「ここに人呼ぶの初めてだね」
「私はつい最近会ったばっかりだけどね……」
「あはは……」
あの日以降母さんからは毎日のように次いつ行っていいのかの連絡が来るが彼女の心臓が持たないとのことで抑制しているのだけれど。
「凛ちゃん凛ちゃん」
「?」
「冷蔵庫に箱があると思うんだけど開けてみてくれる?」
「えっなにこわい」
「なんでよ」
「ばくはつ……?」
時々僕はこの子にどんな人間だと思われてるのか気になる事がある。
「いいからいいから」
「おおお……」
彼女は手をプルプルさせながら箱に手を伸ばして
中身をそっと見る。
その瞬間彼女の瞳の輝きは増した。
「わぁ! これって!」
「そうそう。あの時言ってたモンブラン、買ってきたんだ」
「結構高級店だったのに! よ、良いのですか……」
「凛ちゃんのために買ってきたから食べて」
「ありがとう! ひと口ひと口噛み締めて食べます……」
彼女は甘い物も好きでスイーツを食べてる時は凄く幸せそうな顔をして食べるものだからついつい買ってきてしまう。そして毎回食べ終わった後に言うのだ。
「や、痩せなきゃ……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜今日の珈琲〜
ケニア(中深煎り)
苦味 ✩✩
酸味 ✩✩✩
甘味 ✩✩✩
コク ✩✩✩✩
香り ✩✩
・焙煎度で味がガラッと変わる珈琲。
・作者的には甘くコクの強い深煎りがオススメ。
・スペシャリティ珈琲の中でも人気が上がっているものの一つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます