8杯目 エルサルバドルとしろっぷ。

「今日はどんな珈琲を淹れてくれるんだい?」


何ら変わらないいつもの夜。

いつものように彼がドリップしている私に聞く。

この入りはなんだか久しぶりなような気がする。


「今日はエルサルバドルです」


「珈琲の国として有名だよね」


「そうなのです! 今でこそ少し生産量が落ちたものの昔は世界4位の珈琲大国でした」


「どんな感じの珈琲なの?」


「特徴が無いのが特徴……と申しましょうか……」


「凛ちゃんがそういうなんて珍しいね」


「あっ、でもねでもね! 決して特徴が無いからか美味しくないって訳じゃないのから飲んでみて」


私はそう言って彼の元へ珈琲を運ぶ。


「どうぞ。エルサルバドルです」


「ありがとう。いただきます」


彼は珈琲を口に運ぶ。


「バランスは取れてる……けど確かに他に比べて突出してるものはない気もするね。 でもなんというか、僕の好きな味だ」


「良かった、私もエルサルバドルは好きなの、陽の差す穏やかな休日の朝に飲みたいような、そんな珈琲」


「うん、確かにそんな感じだね。『いつもの』として日々に溶け込みそうな感じだ」


「ところではやとくんのお母さんっていくつなの?」


成人している子供がいるとは思えない見た目をしていた。あまりにも見た目年齢が若すぎた。


「えっと……僕を23で産んだらしいから今年で45……?」


「うっそ、あれで40代後半?」


「たぶんね」


「子供の時『お前の母ちゃん美人じゃね? 』とか言われなかった!?」


「うーん、そもそも授業参観は母さんじゃなくて父さんが来てたからなぁ……」


「お母さん忙しかったの?」


「あの人翻訳家だから若い時まず日本にほとんどいなかったんだ」


「あー、なるほど……というか翻訳家って凄いグローバル」


「……そろそろ2年だね」


「うん」


「そろそろ僕も挨拶しに行かなきゃだね」


「すごーく厳しいかもしれないけど大丈夫?」


「うーん……大丈夫では無いかなぁ……」


彼は苦笑いして答えた。


「でも、! 悪い人では無いから……!」


「それはそうだよ。だって凛ちゃんのご両親だもんね」


「…………うん!」


「あぁ、あと母さんが凛ちゃんの事凄く褒めてたよ」


「えっ、ほんとに!?」


「うん、いつでも家に遊びに来てって言ってたよ」


「それは私の心拍数が耐えられないので……」


「まぁ、家は結構うるさ……賑やかだからね」


うるさいんだ。


「お父さんもお母さんみたいな感じなの?」


「うん、そんな感じだけどお父さんの方が……」


「家とは正反対で楽しそうだね」


「まぁ楽しい家庭ではあったよ」


「今度連れてって」


「うん、分かった 」


そう言った何気無い会話をしながら一日を終える。

思えば私たちのこの夜には珈琲が生活に溶け込んでいた。






















「もう2年かぁ……」


ベッドでそう呟いた私を彼は抱きしめて言った。


「まだ2年……だよ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜今日の珈琲〜

エルサルバドル

苦味 ✩✩

酸味 ✩✩

甘味 ✩✩✩

コク ✩✩✩

香り ✩✩✩


・これといって目立った特徴は無いが爽やかさがあって飲みやすい珈琲。

・かと言って特別飽きが来るわけでも無い『日常』を味わえる。

・この日以来隼人君は毎朝エルサルバドルを飲んでます。

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