第17番 チェロ弾きのための54字のストーリー
兵士たちがやってきて「お前はチェロを弾くのか。では何か聞かせてくれ」と言った。彼は黙って『鳥の歌』を弾いた。
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チェロはしっとりと空気を震わせて、どこかもの悲しい旋律を奏でた。
彼が弾き終わると、兵士たちから自然と拍手が起こった。
「これは何という曲だ」
「『鳥の歌』といいます。ぜひ覚えて帰ってください」
「いい気分転換になった。明日こそは敵を倒せそうだ」
兵士たちは満足げに立ち去っていった。
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チェロ弾きにとって『鳥の歌』は、特別な意味を持つ曲だ。
この曲はカタルーニャ出身の偉大なチェロ奏者、パブロ・カザルスがチェロのために編曲し、生涯に渡って演奏し続けた。
カザルスは1939年にスペイン内戦を避けてフランスに亡命、その後はフランコ独裁政権に抗議するために演奏活動を休止するなど、世界平和を強く訴えてきた。
そんな彼が演奏する『鳥の歌』の中で特に有名なものが、1971年に行なわれた国連デーの記念コンサートでの演奏だ。
九十五歳になろうとしていた老カザルスが演奏前に行ったスピーチは、クラシック界で最も有名な言葉のひとつとなっている。
「私はカタルーニャ地方の短い民謡を演奏します。この曲は『鳥の歌』と呼ばれています。鳥たちは空を飛びながら、こう鳴くのです。ピース! ピース! ピース! と。」
カザルスのピース(Peace=平和)への強い思いが込められた『鳥の歌』は、いまも世界中のチェロ奏者によって弾き続けられている。
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