第26話 ニャンの十四の一 皴枯れ声と戯作者の1
「あら、まあ、かわいい」
我がこのただ黒いだけの汚れた毛皮を
「あら、本当」
連れの金髪が上っ調子に応じたが、言葉とは裏腹に嫌なものを見る目つきで、薄汚れた野良を見るが早いか眼を
「眠いのかしら。疲れているのかしらね」
皴枯れ声が言った。ただ眠いだけだ。まあでも、指摘のように多少なりとも疲れているのは確かなのだろう。
私は長旅を経て、つい先週末にこの街に
だから、実際のところは放っておいて欲しいのだ。
「ぼろ切れみたいで、ちょっと可哀そうよね。ちゃんと食べているのかしら。それとも年老いているのかしら」
放っといてくれ。私はこうして街中にあるテムズ河畔の喧騒の中に身を置いてはいるものの、もうしばらくは独りを楽しみたいのだ。
「あら、この子、どうやら放っておいて欲しいと言ってるみたい」
何と、金髪は私の心の声が聞けるのか。
「でも、この子、この辺りでは新顔よね。うちへ来ないかしら。強引かも知れないけれど、ちょっと連れてこうっと、よいしょっと」
皴枯れ声は言うが早いか、ひょいと私を持ち上げた。私の心の声を聴くことができる友人が言うことには耳を傾けず、
「あら、やだ。逃げたかと思えば付いてくるのね、何てかわいいの」
やがて皴枯れ声は森の手前で金髪と別れると、薄暗い
何やらじめじめとして、時折薄日が差すものの、空までもが今にも墜ちてきそうなほどに低い。
其の
実に質素で
思わずネズミの
「ねえ、お腹空いていないの、ニャンコちゃん」
奴は南の大きな窓を開け放ちながらそう言ったが、どう見ても毛皮でない服を着けたお
腹が空いているとすれば、それはガラガラ声のお主の方に違いあるまい。
そう思う間もなく奴は
私の前であるにも
ネコと思っての
「昨日の残りだけれど、はい、どうぞ」
奴は下着の
有難いことこの上ない。
「どう、おいしいでしょ。私は食べてきたから、お一人でどうぞ。じゃあ私、ちょっとシャワーを浴びて来るわね」
それからと言うもの、私はテムズ
そののち私はその女が死ぬまでのほんの僅かな30年ほどの短い時間を共に過ごし、また、彼女は私以外に家族の一人も持つことも無く、その半生を掛けて私を
さらには
私は有難くも
かわいいと言う その口の持ち主の
ネコの抱きて
「ねえ、あなた。この辺りでは見かけないネコだけれど、あなたは
ガラガラ声は時に私の黒い毛皮を念入りに洗いながら、こんな野良ネコに向かって様々な問いを発した。
答えを得る事は
奴はのちには出版界で編集として活躍した。
このものの性格の
「それにしても、私は年を取るのに、あなたはぜんぜん変わらないのね。ホント不思議」
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