第25話 ニャンの十三の二 君と蝕の2
「大方のものも昔からその通りではあろうが、私は幼い頃から見知らぬものが好きであった。
まあ、夢想するのもそれはそれでよいが、矢張りそれでは物足りぬ。
王宮には多くの古今東西の
当然の如く、それらの宝物の出所の事、さらに朝貢してくる国の使者の顔つきや服装、言語など、あらゆる事が興味の対象となったのだ」
ほほう、博物か。
なるほど、この王も聞けばそれほどの
だが、果たして本当にそうか。
「見知らぬものに対する興味や欲求は人間本来のものであろうが、私は
だからこそ、唯一の王位継承者であったにも
何と、こ奴、
「
まあ、よかろう。放浪とは申せ、そこは何と言っても王の子じゃ、従者は腕利きが一人二人と付いていったんだ」
ほれ見ろ、私のような
さあ、それではその続きはどうだ。
「少々話し疲れたな。
たかがネコ如きにお
しかし、それにしてもお主は若いのか年を経ているのか、見当もつかぬ。
いま、私とお主が共にこの時を過ごしておるのだが、このように昔から今に渡って我々の傍らにあり、また、この
こやつ、或いはもしかすると相応の者かも知れぬ。
いや、しかし一般にネコに
「さあ、お主にも食い物を
そう言うと、
「
そう言うが早いか、パンと肉とを置いたその傍らの
「これはな、驚き
毒が入っていなければな、ははは。
血のようにも見えるが、決して血ではないぞ。
少しぐらいの毒が入っていようと、これこそが俺の至福だ。
これを飲みながら聖書の細かな文字を
そんなことはこのネコには分からぬ。
まあ、人間とは大方その様なものであろうから、貴様がこれによって断罪され、
「いやあ、うまい。
さあ、ではお主にも地獄の書のこの章句を読んで進ぜよう。
何がいいかな。ああ、ここだ」
乞食の王はソファの後ろの棚から聖書のようなものを取り出しながらそう言うと、其の
「汝、死に行くものよ。そなたに我がこの眼球を与え
この眼球ひとつで
しかし、何と言ってもこれは
その昔、死に急いだ我が子が身を以て私に残したものであるが故、断じて粗末に扱ってはならぬ。
これを
「・・・」
「さて、お主はこれを何とするか」
「・・・」
「そうか、猫には申す事など無いと言いたいのか。然にあらん。
在るのかないのか分からぬ死後の事など考えるのは、人間位のものだろうからな。
だがな、此の世というものは実のところ、
すると、これらを余さず知りたいと言う欲求は当然のことながら、それは決して叶わぬ事でもあると言わねばなるまい。
つまり人間には自分の死後が天獄なのか地獄、
もしかするとそれ以外かもしれないが、或いは巷間よく聞くように、死後の世界など無いのかも知れぬ。
勿論この世も同じ、これで終わりと言う事がない。
だが知りたい。
我々の知り得ぬ、戦場のように限りなく死に近い所もあり、また一方で陶酔感に満ちた桃源郷のような、限りなく天国に近い所もあるのかも知れぬ。
あの世が神の国であるのなら、死後においてそれを希求せよと言うのは、何とも穏やかで子供じみた考えだろう。
それよりも死後の真の有様を知りたいと希うのが本来だろう。
それを、恐らく死後の世界がどの誰にも知り得ないだろうと考えて、神の国に転生するなどと、人心を
そこで世界を見限ってしまう人心にも問題があるのだが、まあ
ただ、少々学のある貴族連中はそうも行くまい。人心を
まったく無垢な人民たちは苦も無くこれに
真面目に日々の暮らしを行うことで年貢をしっかり支払って徳を積む。
これが天国への近道と言うのだから全く恐れ入る。
と言って此の世以外の世界がないという証明はされてはおらず、誰それが死後を
何たることか、ははは」
ほう、こ奴も
酒が入った
長くなるやも知れぬが、さて
「先ほどの話でもないが、王位に
習俗にせよ、学問にせよ、宗教にせよ、
どうだ、王であるかどうかに関係なく、これは決してまっとうな考えでないとは言いきれまい」
「・・・」
「見聞を広げるべきであると言う私の意見を、そんなものはあちらからやって来るのだと、父は愚かにも黙殺したのだ。
父の考えも判らぬではないが、またこの世がガレイリオがそう申したように、きっと得体の知れぬ大きな力に動かされていることぐらいは、私にも想像がついたのだ」
さて、
猫は
契りて
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