第13話 ニャンの七の二 うつろひ

この地平に然もあるべきものの様態の変化、ものの離合集散の見事さ加減にはあきれもし、また否応なくらされてもいく。

ただ瞬く間もなく斯くも見事に行われゆく事どもを、この星星をべる神らしきものの被造物には見えない手になるものなのかどうか、その様に言うはやすいが、この我がネコをはじめとして我々はれを判ずるすべを知らぬ。

それにしても我らの持つ身の肉がそのたましい諸共に見事に砕け行く様を想わずにはおれぬ。

我が身にあっては、あかつきよいきらめく明星の如きものの欠片かけらほうき星の尾をくや否や燃え尽き消え失せるが如きは言わずもがな、恰も変わり身の途次とじが抜け落ちおおせたかの如き早業であることをこいねがう。

 在りとしあらゆる現し身は常々或いは刻々に偏頗へんぱなくまたすみやかに今を限りの命に写し移されていく。

諸行無常は押し並べて形あるものの必定ひつじょうなれ。

朝霧は陽の昇るを待たずしてその姿をくらまし、夕べの薄暮はくぼは陽のかしぎを止めようもなく万象を漆黒のとばりに包み込んでいく。

 今居いまおりの岬はやがて陸奥へと山塊の一隅をなしつつ退くことであろう。

湖水にぼっせし村落は言うに及ばず、消えゆく、或いは移ろいありく湖沼もネコもまた然り。

岳山は時ならぬ火噴ひふきの地鳴りや降水洪水に山塊を奪われ、以て崩れるに至りては往時の面影を残さず。

ネコもヒトもわずかばかりの瞬く間の時の移ろいにその身を委ねるのみ。

しかしてものの移ろいは総じて各々の身に古びをまとわせるのみならず、灯火をし尽くしては悉皆しっかいを暗闇にほうりこむ。

これらは只々ただただ只管ひたすらに進みゆくばかりで、各員各自が如何にこれを押し止めようにも進み移ろうこととどむること能わず、ネコ如きには決して振り返る事すらかなわない。


 餓鬼共の芥子けし魂魄こんぱく噛み砕き

    六腑ろっぷいたみ 今宵こよい果敢はかなむ


 さむくろに身を忍ばせて夜露 

    星空  くらくなりにけるかな


 山茶花さざんかに宵待ち月の白きかな

    風雪淡く髭を凍らす

              

 蟻どもの半歩を照らす昔より

    くび落ちて立つ真白き裏葉


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