ちょっと俺について来い


 夜、アパートに帰った萌子はお湯を沸かし、カップ麺を作ろうとしていた。


 昼間、藤崎は、


「俺が好きなのは、花宮ですからっ!」

と叫んだあとに、こちらを見て、


「誤解だっ」

と手を振り、後退あとずさっていった。


 なにがどう誤解なんだろうな……。


 全部自分で言っておいて、と思いながら、萌子はカップ麺の蓋を開ける。


 きつねうどんだ。


 この段階ではちょっと面白い匂いがするのに、お湯を入れた途端に、いい香りになるのはなんでだろうな、と粉末スープの袋を開けながら思っていた。


 晩ご飯にカップ麺。


 自分でもどうかと思うが、今日は、いろいろと衝撃が強すぎて、作る気にならなかった。


 いやまあ、なんの衝撃もなくとも、カップ麺の日もあるのだが……。


 でも、キャンプ場で、みんなでお湯沸かしてカップ麺作ると、すごいご馳走に感じられるんだけど。


 家でひとりで作ると、ものすごい手抜き感と罪悪感があるのはなんでなんだろうな、と萌子が思ったとき、玄関のチャイムが鳴った。


 お、そうだ。

 宅配便が来るんだった、とローボードの上に置いているハンコをとり、

「はい、はーい」

と言って玄関に走る。


 ドアを開けながら、ハンコの蓋を開け、

「すみません。

 ありがとうございますー」

と言って顔を上げると、総司が立っていた。


 いつから課長、宅配業者に……と思ってしまったが、もちろん、違った。


 何故、此処にいるのかわからないので、つい、そんなことを思ってしまったのだ。


「今、暇か」

と総司に問われたとき、


「あっ、花宮さーん」

と廊下から声が聞こえてきた。


 ホンモノの宅配のお兄さんだった。


 いや、課長がニセモノなわけではないのだが……。


 用意してあったハンコを押して、荷物を受けると、萌子は総司に言った。


「……今、暇になりました」


 蓋を開けたままのカップ麺も気になったが、とりあえず、そう言ってみた。


 総司がなにをしに来たのか、気になったからだ。


 総司は大きく息を吸い、


「花宮」

ともう一度、萌子を呼んだあとで、言ってきた。


「……キャンドル二、三個持って、付いてこい」






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