私よりツワモノが……


「今回は違うところに行ってみようと思うんだ」


 火曜日の昼。

 萌子と総司と藤崎は屋上にいた。


 コンビニで買ってきたお弁当を食べながら、週末の打ち合わせをするためだ。


「此処は、牡蠣厳禁じゃないぞ」

と相変わらず、ジョークなのかなんなのか、わからない淡々とした口調で総司が言ってくる。


 すると、藤崎が、

「え? そこ、牡蠣はカード払いなんですか」

と訊いてきた。


 牡蠣現金……。


 私よりツワモノが……と思いながら、萌子はおむすび弁当の蓋を開けた。


 総司はそんな藤崎の言葉に突っ込むこともなく、華麗にスルーし、


「川もあるから、釣りもできるぞ」

とスマホを見ながら言ってくる。


「あっ、いいですねー。

 こう串に刺して焼いた魚で一杯」

と言った藤崎に、


「釣れなくても、売店で買えるらしいから大丈夫だぞ」

と総司は言っている。


「さすが課長」

とすぐに釣れないことまで想定する総司に藤崎が笑う。


 だが、萌子はそんな二人を恨めしげに眺めていた。


「いいですね~。

 串に刺して焼いた魚で一杯……」


「お前、土曜、友だちと呑むんだろうが」


「いや、そうなんですけど。

 それ、ハイジのチーズくらい憧れですよ~」


 そう言いながら、萌子はスマホの地図で場所を確認する。


 ストリートビューで通りを見ていると、総司が、

「そこを右だ」

と横から画面を指差し、言ってきた。


 近いですっ、課長っ、とちょっと上体が逃げながらも萌子は言った。


「それが、うまく右に曲がれないんですよ~」


 指で画面を右に向けようとするのだが、うまく動かないのだ。


 道の真ん中まで行かないので、画面が切り替わらないようだった。


「もっと前に出ないと」


 総司が画面を覗き込み、言ってくるが、萌子はつい、

「ひっ、かれるじゃないですかっ」

と叫んでしまう。


 実際に道の真ん中に出るわけではないとわかっているのだが、なんだか怖い。


 そんな感じで、地図アプリもうまく使えない萌子に、

「……朝、迎えにいってやろうか?」

と総司が訊いてくる。


「だ、大丈夫ですよ。

 スマホのナビ使って行きますから」

と萌子は言った。


「だが、俺が迎えに行った方が、お前、朝来ても呑めるだろ」


 俺たちは夜呑むから、朝は呑まなくていいから、と総司は言ってくれたが、萌子は断る。


「いえいえ、そんな申し訳ない。


 大丈夫ですよ。

 今回は呑まなくても。


 前の晩、呑みですしね。

 日曜日、楽しみにしてますね」 

と萌子は言って、スマホを閉じた。






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