酔っ払いは最強です
「なに萌子。
もう呑んでないの?」
土曜の夜、そうそうに酒からノンアルコールのカクテルに切り替わった萌子に気づいて、友だちが訊いてきた。
「ああ、うん。
明日早くに車で出るからさ」
「へー、何処行くの?」
「キャンプ」
え、あんた、キャンプ行くの?
サチカも最近、彼氏に付き合って行ってるらしいよ、とか、またそこから話が盛り上がり、みんなと笑い合いながら、萌子は思っていた。
迷ってたけど、やっぱり来てよかったな。
久しぶりにみんなと会えたし、と思ったとき、スマホが鳴った。
「花宮、今、何処だ?」
と総司が訊いてくる。
「え……と地下にある居酒屋です」
場所と店の名前を訊かれて答える。
「あの、課長っ。
今、何処で……」
言い終わる前に、ぶつっと電話は切れていてた。
相変わらず、マイペース~ッ!
と思いながら、スマホを見つめていると、
「そろそろ次行くかー。
萌子はもう帰るんだっけ?」
と言いながら、ちょうどみんな立ち上がった。
会計をし、階段を上がって地上の道に出ると、総司が立っていた。
「課長っ。
えっ? 釣った魚で一杯は……」
「今からやるんだ。
だから、早く来い。
藤崎には火を見張らせてる。
笑いながら、火を見てたよ」
いやそれ、なんかヤバイ人では……。
火の用心の霊から解放された藤崎が、揺れる炎を瞳に映しながら、焚き火の前で膝を抱え、ふふふ……と笑っている幻を見た。
「課長、すみませんっ」
「いや、ちょうど買い忘れた物もあったからな……」
と総司が言いかけたとき、友人のひとりが総司を見て、叫び出した。
「王子っ。
王子が迎えに来たじゃない、萌子っ」
他の友人たちも、王子って感じ~っと言いながら、萌子の肩を叩き、みんなでゲラゲラ笑っている。
……社外の人間、怖すぎる。
社内の人なら、そんなこと思っていても言わないが。
彼女らにとっては、ただのイケメンのお兄さんだからだろう。
総司は引き気味だったが、そこで突っ込んで、なにか言うようなことはしなかった。
「では失礼します」
と去り際、総司は、みんなに律儀に頭を下げる。
「失礼します、だってっ。
どうしようっ。
王子に挨拶されちゃったよ~っ」
照れる~っと叫ぶ彼女らはまだツボに入っているようだった。
……酔っぱらい最強だな。
はは……、と萌子は苦笑いしながら、手を振り、その場を去った。
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