おのれ、藤崎
藤崎……、もう課長にキャンプに誘ってもらったのだろうか。
月曜日の社食。
たまたまの同期のみんなで同じテーブルになり、楽しく語らっている間、萌子はビーフシチューランチのバケットを手に藤崎を見つめていた。
「萌子、なに熱く藤崎を見てんの?」
とめぐが笑う。
「課長が妬いちゃうよ。
ほら、こっち見てるし」
とめぐに言われ、その視線を追うと、確かに総司は食べる手を止め、こちらを見ていた。
だが、萌子は、
いや、藤崎を熱く眺めているのかもしれない……、と思う。
いつキャンプに誘おうかなと思っているに違いない。
消防士の霊が離れ、火もつけられるし、存分に自衛隊でのサバイバル技術を生かせるようになった藤崎と総司のタッグなら怖いものなしだ。
……そうだよね。
私、もういらないよね、と萌子は思う。
可愛くて気の利く女子なら、いるだけで、場が華やかになるとかあるだろうけど、そういうキャラでもないしな。
気が利くのはいつも課長の方だし。
常に世話を焼いてもらっている気がするしな……と思いながら、藤崎を見て、総司を見た。
「お、なになに。
噂の萌子ちゃんを見てるの?」
と同期の
「なんだ、噂の萌子って」
「いやいや。
女性に興味のないお前に初めてできた彼女っぽい子がいるらしいって広まってるよ」
と理は笑う。
彼女、ではなく、彼女っぽい、という辺りに、ほんとうだろうかという世間様の疑いのまなざしが込められている気がした。
「……別に花宮を見てたわけじゃない。
どっちかと言うと、藤崎を見てたんだ」
と言って、
何故、藤崎……、
という顔をされたが。
別に藤崎を熱く見つめていたわけではない。
単に、キャンプに誘おうと思っていただけだ。
だが、確かに、9 萌子で、1 藤崎、な感じで見ていた気はする。
「そういえば、秘書の
お祝いするか?
いつも世話になってるもんな」
と理に言われ、ああ、と言う。
すると、ちょうど
「おめでとうございますー」
と声をかけた萌子たちのテーブルで立ち止まり話していた。
「やっぱ、素敵な人は早く売れるよなー。
俺もがんばろっと」
と理は言うが。
ちょっと童顔ぎみで愛想の良い理は女性に警戒心を抱きせないし、人気もある。
仲間としてはいいやつだが、男としては違う人種だな、と総司は思う。
……俺の前に出ると、花宮でさえ、固まってるときあるもんな。
ふと、帰宅した自分を出迎えてくれる萌子を想像してみた。
「あのっ、お風呂でしょうか、お食事でしょうかっ。
お食事でございますねっ。
では、早速っ」
はっ、という感じで走り出しそうだ。
……それ、嫁じゃないよな。
下僕だ。
それか使えないメイド。
二度もキャンプに一緒にいったのに、なにか距離があるんだよな。
いや、別に距離を縮めたいというわけではないのだが、
と思いながら、チラ、と萌子を見たが、視線が合うと、さっとそらされてしまう。
……距離があるな、やはり、と思いながら、せめて物理的な距離だけでも縮めてみようかと、トレーを下げるとき、まだ食べている萌子たちの近くを通ってみた。
萌子の話し声が聞こえてくる。
「よく学校でさ。
お昼休みにコンロ持ち込んで、すき焼きとか鍋とかやろうとしたりするじゃない」
いや、よくはないぞ……。
「大学のときさ、先生に見つかると怒られるから、屋上か部室でやろうって話になって。
でも、誰かが屋上は『かきげんきん』だよって言い出して。
そうか、牡蠣は駄目なのかって思ったんだよね。
そんなときない?」
「ない」
さりげなくうしろを通り抜けようと思ったのに、思わず言ってしまっていた。
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