らしくもなく、流され始めたぞ……
月曜日、鼻歌まじりに萌子が職場の廊下を歩いていると、
「どうした? 楽しそうだな、花宮」
という声が背後からして、台車を押した男に追い抜かれた。
隣の部署の
同い年だが、元自衛隊員というガタイのいいイケメンだ。
「いや、火鉢があったの、思い出して」
と笑って言うと、
……火鉢? と藤崎は眉をひそめたあとで、
「火、
……火か」
と呟きながら行ってしまう。
なんなんだろうな~、と思いながら、萌子は藤崎を見送った。
一部全角数字が混ざってるな、と萌子が提出した文書を確認していた総司は気がついた。
「花宮」
と萌子を呼んた総司は、
そんなに厳しく言うほどのことでもないかもしれないが。
今後のことも考えて、ガツンと、
と思っていたのだが。
目の前に来た萌子はすでに叱られる気配を感じて、しゅんとしている。
反省した仔犬みたいな顔をしている萌子を見て、総司は、
叱りにくいじゃないか……と思ってしまった。
今までなら、バシッと叱っていたのに。
そして、ウリ……、お前まで足を止めるな。
珍しく萌子の横で脚を止めているウリ坊が萌子に同調するように
叱りにくいじゃないか~っ。
総司は萌子の前に書類を投げて言う。
「数字、二箇所、全角になってたぞ」
「すみませ……」
「もういい。
行け。
二度とやるなよ」
「えっ? はいっ」
と言いながら、萌子はその書類を手に首を傾げつつ、去っていった。
いつもなら、もっと叱られているところだからだろう。
ウリ坊もいつの間にか、また走り出している。
これだから、一部の部下と特別に関わるのは嫌なんだ。
だが、一度誘ったものをナシにはできないからな。
そうだ。
区画を別にしよう。
俺がやりたいのはソロキャンプだしな。
そう思った総司は昼休みに、キャンプ場に電話した。
「すみません。
来週の土曜、予約している田中総司ですが。
はい。
もうひと区画、空いているようならお願いしたいんですが」
すると、親切丁寧なキャンプ場の人は、
「今なら、お隣の区画がとれますが」
と言ってきた。
隣……。
それだと分ける意味がないような気がするが。
「どうされますか?」
と問われたとき、
『来週も一緒に来るか?』
『はいっ。
お供してもいいですかっ』
と全開の笑顔で言ってきた萌子の顔が頭に蘇っていた。
「……では、隣で」
そう何故か言っていた。
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