第37話 ダブルデート
ライアン様は功を奏してコーデリア様を誘うことに成功したようだ。
意気揚々といつ行く? とライアン様に聞かれたので、みんなの都合のあう一番早い休みの日にでかけることになった。
当日は晴天に恵まれて、絶好のデート日和だった。
そんなデート日和のはずの昼下がり、みんなで訪れた雑貨屋で私は頭を抱えていた。
今日、ダブルデートのはずでしたわよね……?
目の前の光景に自問自答を繰り返すのはもう何度目でしょうか。
両手に花と言わんばかりに、ジル様の両隣を固めるアリーシャとコーデリア様の姿にくらりと眩暈を覚える。
どうしてこうなってしまったのでしょう。
私はジル様とアリーシャ、ライアン様とコーデリア様というつもりでダブルデートをしようと提案したはずなのに、いざ蓋を開けてみたらアリーシャとコーデリア様がジル様を取り合うという修羅場な展開になってしまっていた。
一緒に歩いているはずのライアン様がどことなく遠く感じる。
ライアン様、本当に申し訳ありません。本当にこんなはずではなかったのです。
私は思わず遠い目をした。
多分、ジル様も同じような顔をしているに違いない。
アリーシャとコーデリア様が雑貨屋で小物を見ているうちに、ジル様がこっそりとライアン様を店の外に連れ出して頭を下げた。
「すみません、ライアン。まさかこんなことになるとは……」
「あー……いや、俺も誘い方が悪かったのかもしれないし……」
「…………なんと言って誘ったんですか?」
「ジルベルトから遊びに誘われたんだけど、アリーシャ嬢と四人で遊びに行かないかって」
…………それはデートというよりはただの遊びのお誘いですわね。
私は雑貨屋の中にちらりと意識を向けた。
ショーウインドウ越しに、可愛らしいクマの形をしたガラス細工のペーパーウエイトを手に取って眺めるコーデリア様が見える。
もしかしたら、コーデリア様はこの機会にジル様との仲を深めようと思っているのかもしれない。いや、たぶんその線が濃厚だ。
それでは困る。非常に困るのです。
せめて、今日のデートでコーデリア様には何とかライアン様を異性として意識してもらわなければ。
私はこれからの予定を頭の中に思い浮かべる。
雑貨屋巡りが終わった後は、カフェでお茶して公園を散策の予定だ。
いっそはぐれたと装ってライアン様とコーデリア様を二人きりにしてしまおうかとも思ったけれど、コーデリア様のべったり具合を見ていると、彼女に知られずにアリーシャと姿をくらます方が難しい気がする。
そうなると、一番可能性の高そうなのはボートに乗る時でしょうか。
ボートならば強制的に二人きりになれるし、ジル様が婚約者であるアリーシャを優先するのも自然な流れに思える。私はそこに勝機を見出して、公園でのボートに命運を託すことにした。
そうと決まれば、アリーシャとコーデリア様がいないうちにライアン様にお伝えしておきましょう。
「ライアン」
「んー?」
私が呼びかけると、ライアン様は雑貨屋を出てすぐのところにあったレンガを積んでできた花壇の縁に座って気のない返事をした。
何ですの、その腑抜けた様子は! もっとしっかり気を持ってもらわなくては。
「公園のボートでは絶対にコーデリア嬢と二人きりにしてさしあげます。だから、頑張ってください……!」
私はありったけの思いを込めて言葉を放ち、ジル様はありったけの思いを込めてライアン様の両肩を叩いた。
その気概が伝わったのか、ライアン様はやや引き気味に頷き返した。
***
雑貨屋巡りを終えて公園へ足を延ばす頃には、気を遣ったアリーシャがジル様から離れてライアン様と話すようになっていた。
いつの間にかジル様とコーデリア様、ライアン様とアリーシャという構図になっているではありませんか。
これはまずいとジル様も思ったのか、気遣うような視線をアリーシャに向ける。その視線に、アリーシャは眉尻を下げて少し寂しそうな顔で小さく手を振り返してくれた。
ああ……これ。この感覚には覚えがありますわ。
私は生前のことを思い出して胸がキュッと締めつけられた。
もともと私はぐいぐい入っていけるタイプの人間ではないのです。争いごとに発展する前に一歩下がって引いてしまうところがある。生前もこうしてジル様がコーデリア様に言い寄られても強く抗議することができなかった。だからこそ、コーデリア様にジル様を奪われてしまったのですが。
このままではライアン様とコーデリア様をくっつける前に、アリーシャがジル様から離れていってしまいますわ。
こちらも早急になんとかしなければ。
公園に隣接するバラ園を散策して、公園の中央にある湖でボートに乗ることを提案する。
ジル様と一緒に乗れると思ったコーデリア様は顔を輝かせて賛成し、それとは対照的にアリーシャは顔を曇らせた。
ボート乗り場までやってきたジル様はライアン様と目配せをして頷きあうと、どちらからともなく動いて、ジル様はアリーシャの手を、ライアン様はコーデリア様の手を取った。
アリーシャもコーデリア様も予想外の相手に手を取られて、大きく目を見開いた。
戸惑う二人をよそに、ジル様とライアン様はそれぞれの手を引いて相手が戸惑っているうちにボートに乗せてしまう。
「それじゃあ、ライアン。幸運を祈っています」
「すまない、ジルベルト。恩に着る」
短く言葉を交わして、半ば無理やり当初の予定通りジル様とアリーシャ、ライアン様とコーデリア様に分かれて乗ったボートは湖の上を漕ぎだした。
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