第21話 勉強会をしませんか?
「放課後に図書室で勉強会……ですか?」
私の意見を聞いてくださったジル様がさっそくアリーシャを勉強会に誘うと、彼女はきょとんとして首を傾げた。
今まで試験前でも一緒に勉強するといったことがなかったので、アリーシャが不思議に思うのも無理もないだろう。
ジル様、頑張って
口に出して応援するわけにはいかないので、心の中でそっとエールを送る。
ジル様がアリーシャが苦手にしている数学と歴史学の話を口にすると、彼女はピシリと固まった。
「あ、えーと……その、ジル様。私、放課後はちょっと……」
明らかに目をそらしながら断ろうとしてくるアリーシャに、ジル様がぼそりと「絶対じゃなかったんですか?」と恨みがましい呟きを漏らした。
ジル様、声に出てますわよ。
幸いアリーシャの耳には届いてなかったようで、彼女は目をそらしたままどうやって断ろうかと考えを巡らせているようだった。
私は目の前の
放課後一緒に勉強するのは絶対に嬉しいと思っているはずなのに、なぜ断ろうとしているのか。
しかも、苦手な数学と歴史学も教えてもらえるという一石二鳥の状態なのに。
そこまで考えて、はたと気づいた。
そうか、アリーシャは数学と歴史学が苦手だということを気づかれたくないのですわ。一緒に勉強したら、明らかに苦手だということがばれてしまいますものね。
好きな人には少しでも自分のいいところを見せたいのが乙女心だ。
きっと彼女は今、ジル様と一緒にいられる時間と苦手な教科を天秤にかけているのだろう。
数学と歴史学が苦手なことなんてもうとっくにバレてしまっているのだから、潔く一緒に勉強しますって言ってしまえばいいのに。
彼女の考えを変える『あと一押し』がないかと視線を巡らせてみれば、アリーシャの向こうにブライト様の姿を小さく捉えた。
この際ブライト様にも手伝ってもらいましょう。
私はジル様に断りもなしに口を開いた。
「ブライトも一緒にやりますよ。彼は数学をやりたいと言っていたので試験に出る範囲を復習する予定なんです。よかったらアリーシャも一緒にと思ったのですが……」
さぁ、アリーシャ。どうかしら。
数学が苦手と公言しているブライト様も一緒ですわよ。
私ことジル様の言葉にアリーシャは口元に手を当てたまま考え込んで、にっこりと笑顔を浮かべた。
「やっぱり私もご一緒してもかまいませんか?」
やりましたわ!
私はジル様の中で小さくガッツポーズした。
***
放課後。
勉強するなんて寝耳に水なブライト様を引きずり込んで、図書室のスタディスペースで勉強会をすることになった。
ジル様とその隣にアリーシャ、向かいにブライト様で四人席に座って数学の勉強を始めた私は、あら? と首を傾げる。
ブライト様、前よりも数学ができるようになってる?
以前は試験前にジル様に数学教えてーと泣きついているブライト様を何度かお見かけしたような気がするのですが、意外にも自分で問題を解いていらっしゃいました。
ジル様がそんなブライト様のノートを見て一言。
「あ、ブライト。計算間違ってますよ」
「うわ、ホントだ。結構頑張ったはずなんだけどなぁ……はぁ、なんでこの世に数学なんてあるんだよぉ……」
そんなやりとりを見て横でくすくす笑い声をあげたアリーシャのノートは、五問くらいしか進んでいなかった。
とりあえず四苦八苦しながら頑張って自力で解こうとしているものの、途中の計算で引っかかって最後の解までたどり着けていないような状態だった。
アリーシャの手が止まったタイミングを見計らって、ジル様が丁寧に解き方を教えてくれる。
肩を寄せ合っているせいで顔の位置が近い。私にはアリーシャが内心慌てているのが手に取るようにわ
かった。
ああ、ジル様とそんなに近くで勉強を教えてもらえるなんて本当に羨ましい。
でも、これで少しはジル様とアリーシャの距離も縮まったかしら。
時折真っ赤になって慌てるアリーシャの姿に、私は眩しいものを見るように目を細めた。
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