第3話 彼女を観察
「雪花さん」
「なぁに?」
「こんなとこで食べないで、教室で食べたら良いのに」
「有馬くんってお節介ね」
ムムッ。
僕はちょっと腹を立てた。
だって
実に楽しそうに。
それなのに。
なぜ、今日は僕なんかを追い掛けて、たぶん興味がないだろう科学部の部室にやって来てるんだ?
僕の方は、
そう。
それはクラスに友達がいないから。
高校生になって数カ月、二学期に入ったのに友達が出来ない。
僕は、科学部の大吉先輩や二年生の先輩とは馬が合うし、彼らは穏やかで優しくしてくれる。
――ここが僕の居場所だ。
ほっとひと息つける、そんな居心地の良さがある。
初めは仲良くなれそうなクラスメート達の輪に恐る恐る声を掛けたが、なんだか入っていけなかった。
その男子達は僕とタイプ的には似ている、大人しくてパッとしない感じ。
見た目もそうだし、ずば抜けた物は感じない雰囲気で、仲良くなれそうだなと思ったんだけどな。
何度か一緒に教室移動とかついていったり、お昼御飯を食べる時に声を掛ければ仲間に加えてもらうことは出来た。
話を合わせたり、話題を家で考えてきたりもしてた。
でも、毎日「今日も入れてくれる?」と言う度に、ちょっとづつ辛くなってきた。
その男子達の顔が、なんだかウザったそうだったからだ。
僕は、人の顔色ばかり窺って生きてきた。
だから、人の気持ちの機微に敏感だった。
微かな表情の変化で、なんとなく悪意や機嫌なんかも悟ってしまう。
例え、その原因が僕でなくっても、過敏な性格なので、不機嫌になったのが自分のせいに感じてしまう事がよくあった。
相手の機嫌を悪くさせているのが、僕以外でない他人にあろうとも。
僕は自分と似たような、クラスの陰キャな集団にすら自然に仲良く溶けこむことが出来なかった。
類は友を呼ぶ――んじゃなかったけか?
――あれ? 友達ってどうやって作るんだっけ?
そのうち、どうしたら良いか分からなくなってきて。
僕がどうすれば人と友達になれるのかも分からなくなって。
学校で、プチパニックに陥っていた。
気づけば孤立していた。
周りにはグループの輪が出来上がっていて、すっかり『ぼっち』になっていたんだ。
「科学部に入るのかい? 雪花さん。うちはいつでも女子大歓迎さ。しかも君みたいな美少女を絵に描いたような人が来れば、華やぐだろうな。なぁ、有馬?」
先輩は長机の向かい側に座って、僕らを交互に見た。
人ってほんとに鼻の下が伸びるんだなぁ〜って、先輩を見て僕は変に感心をしていた。
「入ったら、毎日ここでランチ出来るのよね?」
「まあ……そうだけど。雪花さんは、そんなんでクラブ決めて良いわけ? 前はテニス部だったんでしょ?」
「なんで有馬くんが知ってるの?」
「自己紹介の時、言ってたじゃないか。ここでもテニスやりたいって」
「ん〜、そんなこと言ったかなぁ」
雪花さんが、ぱくっと卵焼きを食べる仕草が可愛くって一瞬見惚れていたのは、誰にも内緒だ。
バ、バレてないよな?
二人には、特に雪花本人には悟られたくない。
「有馬くん、私のことばかり見てない?」
「み、見てないよっ」
「『あーん』ってしてあげようか?」
「そんなんいるかっ。しなくていい」
完全に僕は
もう反応を面白がられてるに違いない。
女子と近くで接する機会のない僕には、こんなやり取りはかなり刺激が強い。
「科学部に入ろうかな。楽しそうだし」
「ブフォッ。まっ、まじっすか? 放課後、部室に来てくれたら、入部届け用意しときますよっ」
大吉先輩は箸を掴みながらガッツポーズをした。顔はまさに狂喜乱舞状態である。
良いのかな、雪花さんはそれで。
僕の大好きな科学部は、地味な活動しかしていない。
スライム作りをしたり、カラメルソースを作って砂糖の変化を実験したりする。
あとはパソコンで、パワーポイントというソフトを使って実験結果の資料を作成したりする。
陽キャに見えるテニス好きの雪花さんが、果たして陰キャの巣窟の科学部(例えが我ながら自虐的か)を好きになるだろか?
性格に合うのかな?
もしかして、雪花さんは教室にいたくないってこと?
――で。
気になったから……。
僕はさり気なく、
つづく
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