第2話 小悪魔雪花杏奈

「ブフォッ!」

 変な叫び声がした。

 僕にはその声の主は分かっている。

「な、な、なんで科学部の部室に女子がいるんだぁーっ!?」

 振り返ると、髪の毛が手入れされていない天然パーマの部長がいた。

 いつにも増して、今日は一段とミニのアフロヘアみたいだな……。「鳥の巣頭」とたまに不良達に馬鹿にされている。


「こんにちは。クラブ見学に来ました」

「うひゃっ! うちに見学!? どうぞ隅から隅まで見て行って下さい。君っ。ななな名前はっ!?」

 部長は喋りは噛み噛みで、明らかに興奮しきってる。

雪花杏奈ゆきはなあんなです」

 にっこり。

 ――僕の後を、僕の了解も得ずに何故だかついて来た雪花杏奈ゆきはなあんな

 彼女は今、天使のような微笑みをたたえ、唐沢大吉からさわだいきち部長に愛想を振りまいた。


 嘘こけ。

 勝手についてきたくせに。

 クラブ見学だと〜?

 僕は何も聞いてないぞ。


 ここは、コンピュータ室の横にある小さな準備室が科学部の部室だ。

 まぁ、科学部はコンピュータ室も使えるし、だいたい部員は僕を含めて三人しかいないので、部室において特に手狭さは感じないな。


 問題は部室に僕のクラスに来た転校生が、入り込んでること。


 僕の通う成城南高等学校=通称南高なんこうは女子の制服が可愛いと評判だ。

 たしかにアイドルの衣装の様なデザインのブレザーは、女子生徒を引き立てるのだろう。

 雪花杏奈ゆきはなあんなは転校してきたばかりなのだが、バッチリと着こなしている。

 雪花の着てる袖長めのカーディガンがまた似合っていて可愛い……っておいっ……。

 別に僕は雪花を好きなわけではない。


 ――僕には心に決めた人がいるんだから。


「しっかし、有馬も教室で昼飯食えよな」

大吉だいきち先輩に言われたくないッスね」


 僕は雪花のことは三分の一ほど無視して、いや、無視したふりして弁当を広げた。

 雪花は僕の横に座り、コンビニで買い込んできたらしい菓子パンを通学バッグからテーブルに二つ出した。


「おかず、食う?」

「えっ――?」


 僕は母さん特製の竜田揚げを弁当箱のフタに載せ、国旗の付いたピックをぶっ刺して、雪花の前に置いた。


「優しいのね、有馬くん」

「優しくはない。ただ食べきらないから。残したらもったいないだろ?」


 なんで、こんな意地悪な言い方になってしまうのだろう。

 たぶん、アレだ。雪花がちょっと心細げで、小動物みたいだからだ。つまり、ちょっぴり萌えキュンな可愛さをかもし出しているから、心を奪われないようにシールドで守らなくてはならないのだ。


「じゃあ、俺からは卵焼きとアスパラベーコンを君達にくれてやろう。後輩ども」

「ありがとう」

「僕にも?」


 大吉先輩は重箱の弁当持参の大食い体質だ。

 背は低いしガリガリな僕からしたら、身長180センチでゆるマッチョな先輩が羨ましい。

 ただ、大吉先輩はアクが強い。


「しかし何かね。雪花さんと言ったかな? 君も何かマニアックな趣味をお持ちかな? 俺は生粋のアイドルマニアで、そこの有馬はゲームキャラマニアなんだ。異世界英雄戦線サクラ様の熱烈なファンでね」

 余計なこと言うなぁ――!

 大吉めっ!


「イセカイエイユウ……?」

 一瞬、小悪魔が嘲笑わらった気がした。

 雪花のぷっくりとした色白の頬にピンク色がさして、形の良い桜色の唇の口角が上がった。


「へぇ、そうなんだ。有馬くんってゲームが大好きなんだね」

「ふんっ。……ああ、そうだよ。だからどした?」

 

 僕は恋しても馬鹿を見てきた陰キャな人間だ。

 二次元の子にしか恋しないと決めている。

 そう、三次元リアルの女の子なんてこりごりだ。





        つづく

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