14 久々のギルド
ジンとアンドレはダンジョンから帰還した後、3日間別行動を取ることにした。
アンドレが、タルバンの門で出会った男のような『華』のメンバー達と接触してこれまで得られた情報をまとめたいと言い出したのが事の発端だ。
ソルを追い出した伯爵家の状況を知りたいジンにとっても願ってもない申し出であったために、これを快く許可。
なお3日という期間は聞き取りを終えてまとめるために必要な時間らしい。
ジェフ達はモルモでの襲撃以降義賊稼業は休業中のはずなのだが、独りで個人的に会いに行く分には問題ないだろう、いうのがアンドレの言だ。
もちろんその後合流はするが、この間にジンが何をするかというと……
「こういうところは、どんな土地でも同じような雰囲気になるものなのか」
冒険者ギルドの様子を見て、ジンはひとりごちる。
ガヤガヤとうるさい会話、食事処にどことなく漂う
酒と男の匂い。ここだけ見れば転生前でもよく行った居酒屋に近い。
違うのは武器をはじめとした金属の匂いが混ざっている点だろうか、とジンは考えつつも掲示板に向かった。張り出された内容と己の記憶を照らし合わせる。
(ふーむ……俺が出会ったことない魔物もそれなりには居るか)
ジンが行っているのは、それは図鑑埋め5%を達成するための情報収集と対策の立案である。
これまではダンジョン攻略およびレベル上げに集中したかったこと、素材はダンジョン近くにある冒険者ギルドの出張買取で事足りていたことから、タルバンの冒険者ギルドを訪れたのは素材売却をした初日ぶり2回目だったりする。
(見事に
幾つかこの世界で倒した事のない魔物もいるが、全て10以下となっていることにジンは気づく。
なお街道で最も弱いレッドスライムはレベル6だ。
事前にアンドレとの会話で冒険者のランクと
また、平均レベルがそれよりも高いダンジョンについては依頼を出していないこともわかった。
これは依頼を出すほどの困りごとがダンジョン関連で無いこと、素材や商品が欲しければギルドを通さずともダンジョン周辺の露店で事足りることが主因である。
他に目立った依頼はないかと続けて掲示板を見ていると、左側から声をかけられた。声質は男性のものだった。
「すみません、追加の依頼を貼りたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、邪魔してすまない」
「ありがとうございます」
ジンに声をかけたのはギルドの制服を着た男性。どうやら追加で依頼が来たらしい。
(朝イチでしか貼り出さないハクタとは少し違うシステムのようだな……ん?)
新しく貼られた依頼に疑問を持ったジンは、男性に声をかけた。
「仕事中にすまない。この依頼は本当なのか?」
「ギルドに来る依頼はすべて本物ですよ。そこをお疑いになるのですか?」
「そうじゃなくて、本当に街道に13レベルの魔物が出現するのか?」
ジンが指差す依頼用紙には……
【依頼内容】インプの討伐
【場所】タルバンより北の街道周辺
【報酬】1匹3000クルスの追加報酬 上限20匹
【期限】インプの全滅が確認できるまで
【依頼主】タルバン冒険者ギルド
【契約金】1万クルス
【特記事項】周辺の魔物より高レベル。
「インプのレベルをご存知ということは、北出身の方ですか?」
「違うんだが……以前別の冒険者から聞いたことがあってな」
「そういうことですか」
仕事に集中しているのか、男性職員はジンの咄嗟の嘘に気づくこともなく次々と依頼を貼っていく。それらを流し見しつつジンはインプについて考えた。
インプは小さい悪魔の魔物。ステータスは同じ13レベルの魔物の中では低めであるものの、水魔法の“アイスニードル”と闇魔法の“ダークジャベリン”、2属性の魔法が使えることから決して弱すぎるということはない。
(しかし……やっぱりEWOとは違うのだろうか)
ジンが疑問に思ったのはその生息場所。
EWOにおいての生息域は山間や入り組んだ洞窟など、高低差があったり陽の光が入りにくかったりと、とにかく人にとっては住みづらそうな場所であった。
ハクタやタルバンなどを含めた地図を思い返すと、確かに北側には国境として大きな山脈が横たわっていた。その場所でならインプは普通に生息しているだろうと予測できる。
が、モルモからタルバンの街道は特に遮蔽物があるわけではなく陽当たりはかなり良かった。タルバンから北もそこまでひどく環境が変わるとは考えにくい。
「さて、これで終わりですが……先程のインプ討伐依頼、
「む……」
さて図鑑を埋めるついでに依頼を受けようかなと思っていた矢先、男性職員からのこの言葉である。
一応依頼書には
確かジン自身のランクだけ見ればランク2つ分の隔たりがあるが……職員のその物言いに流石にカチンときたジンは宣戦布告の意味を込めて強めに依頼書を引きちぎった。
「俺は受けるぞ、狩り尽くしてやる」
もちろん勝つための戦術は知っているし実現も可能だからこその発言だったが、それを知らない職員は呆れるようにため息をついた後に答えた。
「……命とお金を無駄にしたいならご自由にどうぞ」
それだけ言葉を交わすと、ジンは受注カウンターに向かい、男性職員は専用扉からバックヤードに戻った。
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