16 vsゴブリン再び
ジンとテレンスは警戒態勢で森の入り口に近づいていく。
そこそこ近づいたところで、茂みが揺れたかと思うとゴブリン達が飛び出してきた。数は先程と同じ2匹だ。
「予想済みだ!」
ジンは飛びかかってくるゴブリンをバックステップでかわし、その体を蹴りつける。攻撃が終わっているためカウンターとはならないが、ゴブリンがよろめくほどのダメージを与えることができた。
そうしている間にも、もう1匹のゴブリンが再び突撃してくる。少しでも傷を負いたくないジンは距離を取りつつ機会を伺う。
何度も攻撃をかわされたゴブリンの表情が歪んでいく。疲労か、焦燥か。詳しいことはジンには分からないがゴブリンにとって良い感情ではないだろう。
(——ここだっ!)
ジンが動いたのはゴブリンが棍棒を両後ろ手で構えたときだ。
大振りの攻撃が来ると確信したジンはゴブリンの動きに合わせて大きくバックステップ。反動で前に飛び出すときには、棍棒での振り下ろしは完全に空を切っていた。
ヤクザキックの要領で正面からゴブリンの顔を蹴り飛ばす。何かが折れるような嫌な感触が伝わるが、気にしている暇はない。
痛みにのたうちまわるゴブリンを即座に追撃し、その命を絶った。
最初に蹴り飛ばしたゴブリンは、やはり森の中へ戻っていく。ジンはあえて見送った。
「いいのか?」
「ああ。目的はレベルアップなんだから魔物の数は多い方がいい。それに、平原なら草や木の根に足を取られることも少ないしな」
そう答えると、テレンスは慣れた手つきで素早くゴブリンを解体。ドロップ品ともいえる魔石だけになったゴブリンを見つめ、その後ジンを見ながら話す。
「それにしても、武器を全く使わないのは何事だ? それも普通ではない方法で
「ああ、それはだな……今の俺はほぼ文無しなんだ。だからレベルアップと並行して、魔物のドロップを拾ってるんだ」
「はあ……ただの貧乏というわけだったか」
テレンスは呆れながらも、ジンに魔石を投げる。スライムの核のように球ではなく、山間で採れる本物の石のようにごつごつしている。
(やっぱりゴブリンから取れる魔石は色も形もほとんど一緒なんだな)
昼に倒したゴブリンの魔石を回収してソル達に質問してみても、形が似通っている正確な理由はわからないとのことだったが、人間の心臓と同じようなものだろうというテレンスの意見はしっくりきた。
個体差はあっても、種族が一緒ならば臓器の形に大きな変化はないからだ。
「面目ない……っと、来たな?」
街道から逸れた森の中から、先ほどのゴブリン達よりも多くの音が聞こえてくる。
現れたのは6匹のゴブリンと、
「ゴブリン兵がいるのか」
恐らくこの群れを指揮する存在なのだろう。
普通のゴブリンは棍棒で武装しているが、ゴブリン兵が持つのは出来が悪いとはいえナイフだ。防御力こそ普通のゴブリンとほぼ同じだが攻撃力はかなり異なる。
「“プチファイア”」
先手必勝とばかりにジンはプチファイアをゴブリン兵に向かって唱える。
(近づかれなければどうと言うことはないんだよな)
レベルアップに伴い魔法の威力が上がっている今のジンなら、ゴブリン兵にもプチファイアで致命傷を与えられる。
そう思ってのプチファイアだったが、その予想は叶わなかった。
プチファイアがジンの意図に反して突然曲がり、ゴブリン兵すぐ横のゴブリンが炎をその身に受けたのだ。
轟々と燃えるゴブリンはそのまま崩れ落ち、立ち上がることはなかったが……
「マジか!?」
思わず素で叫んでしまう。
EWOでは、対単体の攻撃魔法をかばうためには
(今の挙動はおそらく“自己犠牲”。
普通のゴブリンがそんな上等なスキルを持っているなどと誰が予想できるのか。
「くっ……」
お返しとばかりにゴブリン達の波状攻撃がジンに襲いかかる。
立ち位置的にすぐにとり囲まれるようなことはなかったが、回避一択。ジンは小刻みに距離を取りつつ考える。
(先に助けた冒険者も、
そう思いながらも回避は続け、ゴブリン達がいい感じに疲弊してきたところで反撃に出た。
まずは大振りになったゴブリンの攻撃に対してこちらも攻撃を合わせる。これで討伐数は2匹だ。
フォローするように背後から2匹のゴブリンが迫るが、ジンは姿勢を半身にして彼らを視界に収める。
向き直ったジンを見てゴブリン達は急ブレーキをかけるがもう遅い。
「そら!!」
ゴブリンたちを蹴り飛ばし、さらに追撃で拳を振るう。その2匹もあっけなく倒れた。
あと3匹というところで、ゴブリン達は散発的な追撃をやめ、ジンを取り囲むように立ちふさがった。正面にはゴブリン兵が居る。
(こいつはドロップで“鉄の短剣”を落とすから期待したいところだが、ひとまずは包囲網を抜けてからだな)
残りの3匹は、にじり寄るように包囲を狭めてきている。カウンターを決めることができれば別だが、1匹を倒そうとすれば他の2匹からの攻撃を受ける可能性がある。
そんな状況でのジンの選択は、シンプルな1点突破だ。
向かって左後ろのゴブリンに向かって攻撃を仕掛ける。狙われたゴブリンは棍棒を前に構えたまま反撃の姿勢は取らない。
(防御ね、上等!)
これまでと同じようにゴブリンを蹴り込み、一気に距離を取らせる。
このまま攻撃しようとしたジンは、背後から残り2匹が走り込んでくる音を感じて振り返った。
(EWOの移動速度よりも早い!)
10メートル以上離れていたはずの2匹のゴブリンとの距離は、今は3メートルもなかった。既に普通のゴブリンはジャンプして飛び込むように攻撃を仕掛けてきていた。高低差をつけた2匹の同時攻撃だ。
想定を超える移動速度と連携にジンは舌を巻くが、慌てることなく下から迫るゴブリン兵に対処。ナイフで防御される可能性を考慮して靴の裏で蹴りつけた。
ナイフで反撃はされなかったが、能力の関係か普通のゴブリンほど吹き飛ばない。
上からのゴブリンの飛び込み攻撃は体をかばい両腕で防御。結構な痛みが走るが折れているわけではなさそうだ。
(今のHPならいくらかは受けても大丈夫だからな!)
着地で姿勢が固まっているゴブリンに向かって、お返しとばかりに脚を振るう。綺麗に命中し吹き飛ぶゴブリン。更には追撃に成功し、討伐。
まだ生きているゴブリンがフォローに入ってきたがこちらは既に瀕死の状態。カウンターを合わせることはジンにとって造作もなかった。
残るはゴブリン兵1匹。少々強いとはいえ1対1なら負ける気がしない。
部下がいなくなったことに憤慨したのか、怒りの形相で攻撃してくるゴブリンだが特に技量があるわけではない。滅茶苦茶にナイフを振るってくるだけだ。
それらを回避しつつ、大振りになったところでジンがカウンターを決める。他のゴブリンと同じくあっけない最期だった。
「ドロップで宝箱は……無いか」
地面には宝箱はかったことは残念だが、まあ仕方あるまい。
テレンスにゴブリン兵の解体をお願いすると、普通のゴブリンと色違いの魔石が出てきた。ジンはいい値段で売れることを期待しつつも、次の戦いに備える。
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