3 戦いを終えて
仁は戦いの疲労を少しでも癒すため、強く息を吐きながらしゃがみ込んだ。もちろん先程の反省を生かし、周りからは見えにくい木陰の近くでだ。
(しかしあれはどう見てもEWOのスライムだった……どうなってるんだ?)
仁にはもう、今この世界が夢の中であるとは思えなかった。だが夢でないのなら、一体……?
(まさか、本当にEWOの世界だっていうのか……? 今はそう信じるしかない……よな?)
だがもし、今いるこの場所が本当にEWOの世界だと仮定すると、
「“プチヒール”」
そう呟くと自分の体を優しい光が包む。光はほんの数秒で消え、同時に少しだけ体が軽くなった。石を掴んだ時に擦りむいた手のひらの皮も元通りだ。
次に仁は、手肌の色を確認し顔の周りをぺたぺたと触る。特に耳、額、頭の周りは念入りにだ。
そうして、確認できる範囲では普段の自分と全く変わりがないと結論づけた。
最後に持ち物、装備、ステータスの確認を行う。
(今の俺の種族は十中八九
EWOにおいて、
また、
――――――――――――――――――――
プチヒール 【魔法】
HPをわずかに回復する。
――――――――――――――――――――
先ほど使った“プチヒール”は最弱の回復魔法だ。
回復量は最も効果の低い薬草並に少ないが、最初期はその薬草代も惜しいことが多く、意外にも重宝する魔法である。
この辺りはキャラ作成時と変わりないが、EWOの初期キャラより悪いところも見つかった。
(最悪なのは、初期武器の“古びた木剣”が無いこと。ステータスやインベントリの見方もわからない)
試しにステータス、インベントリ、と呟きながら色々手を動かしたりしてみたが、それっぽいものは現れなかった。
EWOでは当然キーボード1つでできていたことなので、もしかしたら別の方法で出すのかもしれない。
いずれにせよ今すぐに得られる情報では、この世界がEWOそのままなのか、EWOに似た世界なのか判別がつかなかった。
(やっぱり情報が欲しい。そうなると集落を探すしかないか)
思いながら首を右に捻ると、遠くに太陽が反射してきらめいているのが見えた。水場独特の匂いも漂ってくることからあれは川だろう。
少なくとも飲み水には困らないし、川沿いに歩けば集落につく可能性も高い。とてもラッキーだった。
川に向かって歩きつつ、仁は考える。
(そういえば今の俺は眼鏡をつけていないが、遠くの川をはっきりと確認できた。つまり俺の身体が変わっている。しかもとても良い方向に)
顔も良くなったりしてないかな、と思い川を覗き込む。
……残念ながら水面には、普段見慣れた黒髪黒目が映っていた。
ただし若返っており、恐らく高校の卒業アルバムを開けばこんな顔が写っているだろう。肉体もそれに合わせて変化していると思われた。
(少し残念な気もするが、健全な肉体で旅ができるならそれに越したことはない。むしろプラスじゃないか)
仁はポジティブ思考で行くことにした。
川に沿って下流へと歩き始めて数分、早くも森の奥に草原が見えてきた。草原と言っても平坦ではなく、ところどころ小高い丘になっているようだった。
あまり森の深いところに放置されていたわけではなかったようで、安堵する。
草原を眺めていると、川の行先に櫓のような高く細長い建造物とそれらを囲む壁のようなものが見えた。恐らく集落だろう。ただ、今いる森からそこまでの街道が無い。
(EWOと同じかはわからないが、街道が無いのなら魔物とのエンカウント率はそこそこあるはずだ)
仁はその集落っぽいものに向かって歩きながら、さらに思考を回転させる。
(森に現れたスライムの強さから、この辺りはEWOの最初の町周辺と同じくらいの強さの敵が出る……と思う。だったら草原では森と同じく“スライム”、もしくは背の低い“土もぐら”の不意打ちに気をつけないとな)
気を張りながら進むと、遠くにスライムの群れが見えた。確認できるだけでも4匹。
EWOと同じスライムなら、あと1メートルもしないうちにこちらに気がつくはずだ。こちらが先に見つけられたのは警戒していたおかげか。
相手に気付かれていないなら先制攻撃のチャンスである。武器を持たない仁には逃げる選択肢もあったが、あえて戦うことを選択する。
自分が
(この戦いで、俺の
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