第44話 会長とのご対面

「しーちゃんにー、呼ばれて、飛び出て、即参上!」


 ビシャっと音を立てて扉が開いたかと思ったら、会長が妙なポーズをとりながら教室に入ってきた。


 ……と言うか会長、今廊下を走ってこなかったか?


 思わずそんなことを考えていると、隣に居た大塚が黄色い声を上げた。


「きゃー、本当に会長さんが来たっすよ!? ウチ、今猛烈に感動してるっす!」


 手をブンブン振り回しながら身悶える大塚を見て、俺たちは若干引き気味になり――会長は不思議そうに首を傾げながら挨拶した。


「えっと、初めまして?」


 会長がそう言いながら手を差し出すと、大塚が雷に打たれたかの様にビクリと体を震わせた後、真司の方を見た。


「浅野っち、今ウチが会長のお手を取っても良いと思うっすか? それとも、手洗って来た方が良いっすか?」


 まるでアイドルの握手会ばりに挙動不審になる大塚を見て、真司がため息をつく。


「握手くらい好きにすればいいだろ……」


「バッカ、浅野っちは本当にバカっすね! もしここで握手したウチの手が、汗ベタベタで嫌われたらどう責任取るっすか!」


 ハイテンションに真司へキレている大塚を横目に、会長が詩音に耳打ちしていた。


「えっと、あの子が裏サイトを見つけてくれたのかな?」


「はい……詳しくは分かりませんが、少なくともパソコンの操作には手なれた様子でした」


「そっかー……あっ、皆改めて昨日ぶりー」


 そんな風に会長が手を振りながら挨拶して来たので、皆で挨拶するが……会長の言った「そっかー」には色々な物が詰め込まれていた気がするのは、俺の気のせいではないだろう。


「て言うか、お前何でそんなに会長さんのファンなんだよ。その調子だと、直接会ったことも殆ど無いんだろ?」


「あっ、それは私も気になってたかも」


 真司が呆れた様に大塚へ聞くと、由香里もソレに同調した。


「ふふーん、よくぞ聞いてくれましたお二人とも。ウチが会長のファンになった理由はですね……幼少期のあるパーティがきっかけだったんす」


 その後に大塚が早口で捲し立てる様に言った内容は、かなり衝撃的な物だった。


「まだウチが10歳かそこらの時、親と一緒に参加したパーティで突然不審者が現れたんす。当然そのせいで大人も子供も皆パニック状態になってたんすが……そんな中で渚さんが、皆に落ち着く様に一喝したんすよね。警備員が居るから安心して! って。いやぁ、あの時の渚さんはメッチャカッコ良かったっす。いや、今もカッコイイんすけど」


 そんな風に早口で喋った大塚を尻目に、会長へと問いかけてみる。


「そんな事有ったんですね……怪我人とかは出なかったんですか?」


「んー、そんな事もあった様な気がするけど……どうだったっけ? しーちゃん」


「恐らく、5年前の忘年会の時の話でしょうね。幸い怪我人なども無く、犯人の方は直ぐに取り押さえられましたが……渚さん本当に覚えてないんですか?」


 やや呆れ気味に詩音にそう尋ねられて、会長が空笑いしながら髪を弄った。


「あー、言われてみればそんな事も有ったかもねー。……正直あの時は、早くケーキ食べたいしか頭になかったけど」


 あっけらかんと、そんなことを言う会長に詩音が深いため息をついた。


「あはは……でもちゃんとその事件の事ちゃんと覚えてるなんて、詩音ちゃんも結構会長さんの事好きだよね?」


 そんな風に由香里が詩音に問いかけると、詩音が顔を赤くして俯いた。


「それは……はい、嫌いじゃ無いのですけれど。そもそもあの事件が私としても衝撃的だったので……」


 もごもごと、やや言いづらそうに話す詩音に対し、会長が満面の笑みで抱き着く。


「もー、しーちゃんったら素直じゃないなー」


「やめてください、渚さん。皆さんが見てます」


 嬉しそうな会長と、困った顔をする詩音の何時もながらの様子を見ていると、横で大塚が奇声を上げた。


「ひゃー、これは尊いっす! 今この瞬間、ウチ浄化されて無くなりそうっす!」


 そんな訳のわからないことを叫びながら、スマホのカメラを取り出すと、一心不乱に会長と詩音を撮影し始める大塚。


 それに対し、ポーズなど決め始める会長と、さらに困った顔をする詩音と言う相当にカオスな状況が目の前で繰り広げられ始める。


「……元々は、裏サイトの件について話しに来た筈だったよな? 俺達」


 思わず由香里や真司にそう問いかけると、2人も微妙な顔で笑っていた。


――なお、その後裏サイトについての話し合いが始まってのは会長が来てから30分ほど経過してからの話だった


――――――――――――――

いつも、読んでいただきありがとうございます。


以前からラジオにて本作品を朗読いただいたと言う話をしておりましたが、

ついにYoutubeにて動画が上がりましたので是非一度、聞いていただけるととても嬉しいです。


「寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2nd book-」#41~これぞ!ずんたざわみの初鳴きラジオ2021~(2021/1/10OA)

https://youtu.be/turascp46Lw


※全4回中1回目の動画になります。

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