第45話 ある日の5人

「大塚って、教室でもテンション高めだけど、会長の前だと凄まじかったな……」


 会長へ裏サイトについて説明した後、夕飯を5人で食べたのだが、その間も大塚のテンションの高さはとどまるところを知らず……結局、寮の自室に戻ってきたのは門限時間ギリギリだった。


「あー……なんか悪いな。普段は割と猫被ってるんだが、海人達の前では素で話すことに決めたらしくてな」


 ジャージ姿の真司が、自分の席で大きく伸びをしながら、軽く頭を下げてきた。


「いや、別に悪いことはないけどな。何だかんだで今日も楽しかったし」


「そう言ってもらえると、あいつも喜ぶだろうよ」


 肩をすくめて真司が苦笑いしていると、真司のスマホが振動してそれを確認していた。


「そう言えば、真司と大塚さんってどう言うふうに知り合ったんだ?」


 教室ではそれほど話している様子は無いのに、いざ話をしているのを聞いてみれば、お互いに遠慮なく……気安く話している様に見えた。


「あー、そういえば話してなかったか。アイツとは親同士が知り合いだから、ガキの頃からの付き合いなんだわ」


 親同士……と言ったところで真司の顔がやや曇ったが、敢えて指摘しなかった。


「って事は、俺と由香里と同じようなもんか」


 思わずそう俺が呟くと、真司が険しい顔をする。


「アレと南雲さんを一緒にするのは、流石に南雲さんに失礼だろ……ってか、海人はあんな美人と幼馴染とか羨まし過ぎだっての!」


 そう言いながら真司が小突いて来たので、枕を投げつけた所、投げ返され……騒ぎを聞きつけた隣室の奴らも混じって来て、その日は総勢10人からなる枕投げ大会が開かれたのだった。



「それで2人とも寮監に怒られたんすか? お子ちゃまっすねー」


 午前中の授業が終わった昼休憩、食堂で授業中眠そうにしていたわけを説明すると、開口一番大塚からそう言って呆れられた。


 ……正直、由香里や詩音に言われるならまだしも、大塚にお子様と言われるのは釈然としない気がする。


「海人君って、たまに子供っぽいことするよねー」


 クスクスと笑いながら由香里がそう言うと、詩音が少し驚いたように目を大きく開いた。


「そうなんですか? 海人さんは割と何時も落ち着かれてるのかと思ってました」


「いやいや、詩音っち。男子高校生なんて基本おバカっすよ。詩音っちの前では、かっこつけてる男子が多いかも知れないっすけど」


 そう言って大塚が同意を求める様に俺達の方を見てくるが……世の男子高校生の為にも、頷くことはできない。


「えっと……そう言えば、裏サイトの件はどうなった? 大塚さん」


「海人っち、露骨に話逸らしたっすね。……というか、この際だから皆に言うっすけど、ウチのことは桜で良いっすよ。苗字で呼ばれると、なんか背中がムズムズなるっす」


 体を震わせながら大塚――桜がそう言ったので、皆で笑いながら頷いた。


「えーっと……それで、裏サイトについてっすか? 一応、もう既に幾つかは情報抜き取れてるっすけど、最低一週間位は寝かせるのが吉だと思うっす。まぁ、管理者アカウントを乗っ取れれば、こんな面倒な事しなくても良いんすけどねぇ……」


 肩を竦めながら桜がそう言うと、真司が眼を見開いた。


「お前でも管理者権限乗っ取れないとか、意外と凄まじいセキュリティだな」


 そう真司が言うと、桜がムスっとした顔になった。


「別に、無理やり奪うのは出来るっすけど、それだと足がつくからやってないだけっす。勘違いしないで欲しいっすね! ……まぁ、ウチのスキルが足りないと言われればそれまでっすが」


 そんな風に少し不機嫌そうに桜が言い放つと、由香里が目をしばたたかせた。


「えっと、私は全然そこら辺の事詳しくないんだけど、どっちにしても桜ちゃんがやった事は、他の誰にも出来ない凄い事なんだよね?」


 由香里に首を傾げながら尋ねられて、俺達は頷いた。


「なら、桜ちゃんはもっと自分のやった事を誇るべきだと思うよ!」


 桜の手を握りながら由香里がそう言うと、桜が照れくさそうに笑った。


「ありがとうっす。……由香里っち、マジ女神っす! 輝いて見えるっす!」


 そんな、必要な話と取り留めも無い話をどちらも重ねている内に、その日の昼休みはあっという間に過ぎていった。

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