第43話 仕込み完了!

 これから探そうと考えていた裏サイトを一瞬で見つけられて、全員が驚いた顔をしたのを見た大塚は満足げな笑顔を見せた。


「むっふー、良い反応するっすね! いやぁ、ウチ皆と仲良くやれそうな気がするっす」


 そういわれて、俺たちは思わず空笑いが漏れた。


 ――全く悪気は無さそうだけど、凄いクセ強いな


「えっと……まずは目標の一つだった裏サイトを見つけたわけだけど、取り敢えず皆で見てみる?」


 そう由香里が提案したので、俺が同意しようとしたところで……大塚が首を横に振った。


「いやぁ、辞めた方が良いと思うっすよ。別に心の汚れた浅野っちなんかは良いっすけど、詩音っちや由香里っちが見るには結構ハードな内容が書かれてるっすから」


「おい、俺の心が汚れてるってどう言う事だよ!」


 そんな風に真司が抗議するも、大塚は何食わぬ顔で話を続ける。


「まぁ、誰も見ないんじゃ証明にならないっすから、もし良かったら岩崎っちは見てみるっすか?」


 大塚がそれまで座っていた椅子からヒョイっと立ち上がると、上目遣いで俺を見上げてくる。


 ……正直、見たく無い様な気もするが、由香里や詩音の手前そういうわけにもいかないだろう。


「分かった、俺が見るよ」


 そう言って端末の前の席に着くと、真司が俺の肩に手を置いた。


「安心しろよ海人、お前だけに嫌な思いはさせないぜ」


「いやいや、浅野っちは単純に裏サイトに興味があるだけじゃ無いっすか」


 そんな風に半ば呆れた様子の大塚も加わり、3人で端末の液晶を覗き見る。


「……何か、色は毒々しいけど中身は普通の掲示板? みたいだな」


 真司の口から漏れたのは、そんな感想。


「そうなのか?」


「ああ、今ではあまり見かけない……3ちゃんねる位にしか無い、個々人が話題にしたい内容……スレッドを立てて、不特定多数がそれに対する意見なんかを書いていく方式だな」


 そう言われて画面をスクロールしてみれば、様々な題材で色々な言葉が交わされているのが見て取れる。


「あっ、浅野っちが取り上げられてるっすよ」


 大塚がそう言いながら指さした先には、真司に対する罵詈雑言が書かれたスレッドを発見した。


 内容的には「シネ」や「コロス」と言った単純なものから、さも真司に何かをされた様な書き込みや、根も葉もない妄言の類まで多種多様に書かれていた。


「これは……酷いな」


 思わず俺がそう呟き、顔が自然と引き攣ってくるが……一方で当人である真司の顔はケロッとしたものだった。


「まっ、ネットなんてこんなもんだろ。いやぁ、有名人は辛いな」


「なーに有名人気取っちゃってるんすか。まぁただ、浅野っちが言ってる様にこんな物は公衆トイレの落書きみたいなもんすから、気にするだけ損っすよ」


 そんな風に軽く流す2人に内心驚きつつ、スクロールバーを動かしていくと俺達の目的のスレッドを見つけることができた。


――下賤な外部入学組を排除する為の同志を募る


 そう銘打たれたスレッドは古くから存在するのか、タイトルに振られた番号も桁違いに多く、他のスレッドとは書き込んでいる人間の数や、書き込まれる速度も速いように見受けられた。


「かー、くだらね。よくもまぁこんな小っ恥ずかしいモンに、平気で書き込めるわな」


 思わずと言った様子で真司が呟く横で、大塚は別の端末を立ち上げUSBメモリを差し込むと、何やらカタカタと打ち込み始め――その様子を詩音と由香里が覗き込んでいた。


「大塚さん。一体これは何をやられてるんですか?」


 英数字のみで表示された画面に、次々と文字を打ち込んでいく大塚へ、詩音がそう問いかけると大塚がニヤリと笑った。


「んー、簡単に言えば発信機みたいなものをサイトに埋め込んでるところっすね」


 目にも止まらぬ速さで手を動かしながら大塚が語った内容は、要約すれば書き込みを行う人間の場所を特定する情報を抜き取るためのプログラムを、サイトへ仕込んでいる最中だと言う。


 途中IPアドレスのホスト部だの、DNSがどうのだの語り始めた時にはサッパリ分からなかったが、大塚に確認した限りでは認識に間違いはない筈だ。


「えっと……それってやっても良い事なのかな?」


 少し不安げに由香里がそう尋ねると、大塚がケロッとした顔で応える。


「いんや、バリっバリに罪に問われるっすよ。具体的には不正指令電磁的記録に関する罪とかっすね。……でもま、相手がやってる事も名誉毀損甚だから、お互い様っすよ」


 そう言いながら大塚が一際大きくエンターキーを押した所で、仕込みは完了したらしい。


 後は掲示板に誰かが書き込まれていけば、その人の情報が自動的に大塚の部屋に有るパソコンへ送られる寸法らしい。


 余りの彼女の手際の良さに驚いていると、大塚が突然落ち着きがなくなり始めた。


「それで……えっと、ウチは渚さ……生徒会長とは何時会えるっすかね?」


 そんな風に期待した目で俺達を見て来たんで、思わず全員笑顔になると、詩音が代表して生徒会長を呼び出してくれることになった。

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