第42話 スーパーハッカーは女子高生

 イベントが終わった翌日、日曜日の昼過ぎのこと。


 俺達は学園へ使用許可を申請した上で、コンピューター室へと集まっていた。


 室内には1クラス分以上のPCがズラリと並んでおり、その一台一台が3Dゲームを開発出来るような、何十万とする最新機種だというから恐れ入る。


「まだ相手の人は来てないみたいだな?」


 グルリと室内を見回してみるも、誰かが座っている様子は無かったので真司に確認してみると、頭をかいていた。


「あれ? もう既に到着してる筈なんだけどな……」


 そう言いながら真司がスマホ片手に廊下へと出て行ったので、取り敢えず俺達はそれぞれ適当な席に着くと、由香里が昨日から持っていた疑問を口にする。


「浅野君が言ってた協力者の人って、一体誰なんだろうね? 私たちのクラスメイトの女子って言ってたけど……」


「そうですね……正直、私にも皆目見当がつきません」


 由香里と詩音が首を傾げる様子を見て、俺も今一度クラスメイトの事を思い返してみる。


 PCに精通していて、銃で撃ち合う様なゲームをやっているとなると、かなりマニアックな趣味の女の子なんだろうが……うちのクラスに該当する様な女子は思い出せる限りではいない。


 ただ、個人的な事情で授業に殆ど顔を出していない女子もいるが……真司のあの口ぶりから言って、十中八九俺達の会った事の有る女子だとは思う。


 そうすると、該当しそうな女子は……そんな事を、3人で頭を捻りながら考えているとコンピューター室の扉がノックされたので、全員で顔を見合わせた。


「どうぞー」


 代表して俺が廊下に向けて返事をすると、扉が開いて1人の女生徒が入って来た。


「失礼しまーす! ……って、休日にこんな所で顔突き合わせて何してるっすか?」


 そう言いながら元気よく入ってきたのは、茶色がかった髪をポニーテールにまとめ、溌剌とした雰囲気を纏った少女――大塚 桜だった。


 完全に予想外なクラスメイトの登場に、一瞬俺達は呆気に取られたが、彼女の言動からして大塚は偶々この教室に来ただけなのだろう。


 彼女に対してどう応えようか――そう考えていると、由香里が口を開く。


「えっと……こんにちは、桜さん。私たちはちょっと人と待ち合わせをしていて」


 余り大っぴらにすることでも無いせいか、少し言いづらそうに由香里が言うと、大塚は目を細めて疑う様な顔をした。


「えー……本当っすか? 3人でメクルメクLOVEを語り合ってた感じじゃないんすか?」


 そんな風に大塚が言うと、詩音の顔がボッと赤くなった。


「いえ、そんな事はしてないです……」


「本当っすか? 詩音っち? 嘘ついてないっすか?」


 そんな風に言いながら詩音をいじり始める大塚の姿は、どこか生徒会長を彷彿とさせた。


「……ったく、おかしいな。アイツ全然連絡に出やがらねぇ」


 詩音がイジられているのをどう止めようかと考えていた所で、ちょうど真司が難しい顔でスマホを眺めながら部屋へと入ってきた。


「お疲れさん、相手方と連絡がとれないのか?」


「ああ、何でか知らんがスマホの電源が切られてるみたいで……って、何しれっと入って来てんだよ!」


 突然、真司が大声を上げたので驚いていると……背後で「てへっ」と声がした。


「いやぁ、なんか3人とも純情そうっすから、簡単に騙されてくれるかなぁなんて思ったら、見事にコロっと騙されてくれたっすねぇ」


 そんな事を大塚が言い始めたので、咄嗟に何を言っているのか分からなかったが……まさか。


「はぁ、俺も人の事は言えねぇけど、お前も大概食えない奴だよな。――皆、紹介が遅れたけどそこに突っ立っている女が、俺達の協力者だ」


「ちょっと、そこの女よばわりは酷くないすか? あー……申し遅れたっすけど、ウチが浅野っちの協力者のタコ助こと大塚 桜っす」


 そう言いながら大塚が、昨日真司が見せてきたのと同じゲーム画面を出して来たので、思わず声を上げて驚いた。


 いや、人を見た目で判断するのは良くないとは思っているが……どっちかと言えば想像していた人物とは、正反対の人間にしか見えないため、思わず困惑した。


 だが大塚はそんな俺達の視線に気づいたのか、一台だけ立ち上がっていた端末を慣れた手つきで操作し始める。


「皆さん、ウチのこと疑ってるっすね? まぁ無理もないっすが……っと、あったあった」


 そう言いながら、大塚が俺達にPCの画面――黒と赤を基調とした、どこか毒々しい画面を見せてきた。


「このページは一体?」


「あれ? 岩崎っち、分からないっすか? これが件の裏サイトって奴っすよ」


 そう大塚からサラッと言われて、今度は真司も含めて驚きの声を上げてしまった。

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