第39話 インチキの発覚

 終了のアラートが鳴り響いたのを聞いて、3人で第一体育館へ向かって歩いていると、他の一年生達も揃って俺たちと同じ方向へと歩いて行た。


「結局、私達何位ぐらいになったんだろうね?」


「どうなんでしょう? 終了10分前から順位を確認出来なくなってしまいましたから、正確な順位はわかりませんが、多分トップ10には入れたんではないかと思います」


「まぁ、何だかんだで楽しめたから景品は貰えなくても良いかなぁとも思うけどな」


 そう言うと、少し前を歩いていた由香里が振り返りながらニシシと笑った。


「海人君は、どっちにしても浅野君に奢るの確定だけどね」


「それを言うなって、由香里」


 俺が頬をかいて苦笑いすると、それを見ていた詩音がクスクスと笑う。


「あっ、もしかしてあそこで伸びをしながらこっちに来てるの、浅野君じゃない?」


 由香里がそう言ったので、後ろを振り返って見てみれば、丁度真司が角を曲がってこちらへ歩いて来る所だった。


「おっ、海人達じゃん! いやぁ、今回の勝負は俺の勝ちだったみたいだな?」


 俺たちと同じタイミングで真司も気づいたのか、ニヤニヤしながらこっちへ近づいて来た。


「ったく真司、一体どんなインチキしたんだよ?」


「いやいや、いきなりインチキって決め付けるのはどうかと思うぜ? ……まぁ、インチキで間違っちゃないんだけどさ」


 そう言って笑いながら、鼻を擦る。


――やっぱり、何か裏技を使っていた様だ


「あーっ、やっぱりインチキしてたんだ! あの速さは絶対変だとおもったんだよね!」


「あれはまるで全ての宝の場所を、事前に知っている様な速さでしたものね?」


 ジトーッとした目で由香里と詩音から見られて、真司は両手を上げて降参の意を示した。


「悪かったって、報酬の一つの金に関しては俺も生徒会に返却するつもりだって」


 そう真司が言ったので、はて? と首を傾げる。


「ってことは、生徒会長のサインに関しては受け取るのか? 真司がそんなに生徒会長のサインを欲しがってたなんて知らなかった」


「あー……別に俺自身は要らないんだが、協力者がどうしても欲しいって言っててな」


「協力者? 今回のイベントでこんなに早く宝を集められたのは、その人のおかげって事か?」


「まぁなー……」


 そんな風に言葉をにごしながら真司が肩をすくめた所で……突然背後から声をかけられた。


「やーっぱり協力者が居たんだね。イベント開始後からワイヤレスイヤホンをずっと付けてたから、そうなんじゃないかと思ってたけど」


「げっ、生徒会長!」


 声をかけられた方へと振り返ると――そこに居たのは、少し苦笑しながら真司を見ている生徒会長だった。


「やっほ、皆。イベントは楽しんでもらえたかな?」


「あー……はい、とても楽しませてもらいました」


「それは良かった……浅野くーん、逃げようとしても無駄だよー」


 そう会長が言ったので、先程まで真司が居た隣を見てみれば、そこには会長から背を向けて逃亡を図ろうとしている真司の姿があった。


「あっはっは、何を言ってるんですか生徒会長。別に俺は逃げようとなんて……」


「本当かなー? まぁでも、今回の不正についてはそんな大それた話じゃないし、目を瞑ってあげてもいいよ?」


「マジですかっ!?」


 それまで逃げようとしていたのから一変して、真司が身を乗り出した所で、会長が指を一本立てる。


「ただし、一つだけ条件があるんだけど良いかな?」


 そう言われた真司が、あからさまに身構える。


「条件……ですか?」


「うん。あぁ、そんなに心配しないで。簡単に言うと、生徒会活動を手伝って欲しいってだけだから」


 笑顔で会長が言ったのを受けて、チラッと真司が俺たちの事を見て来たので、頷き返す。


 真司が何をやったのかは知らないが、生徒会活動を手伝うだけで目を瞑ってくれるなら受けるべきだろう。


 すると、意図が伝わったのか、真司が少し項垂れながら頷いた。


「あー……わかりました、俺が手伝える事ならやらせて貰います」


「良かった! あーでも、手伝って欲しいのは浅野君もだけど、協力者君の方もなんだよね……まぁ、詳しい話は表彰式の後にでもしようか!」


 そう言うと会長が俺たちを先導する様に歩き始め、俺は未だ肩を落としている真司の背中を軽く叩いて励ましてやった。

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