第40話 結果発表とネタバラシ

 生徒会長に連れられて第一体育館に戻ってくると、イベント開始時に見かけた眼鏡をかけた女生徒――書記の人が腕時計をしきりに確認しながら、キョロキョロと辺りを見回していた。


「えーっと、アレってもしかして生徒会長のことを探していませんか?」


 由香里が、この場の全員が内心思ったことを代弁すると、会長が空笑いした。


「あはは、そうかも知れない……皆、また後でねー」


 会長がそう言って書記の人に近寄っていくと、何やら小言を言われながら急かされている様子が見えた。


「また渚さんは、人に迷惑をかけて……」


 そう言って詩音が、頬を膨らませながら文句を言っているのを見て、思わず笑ってしまう。


「あっ……えっと、すいません。みっともない所を見せて」


 詩音が頬を赤く染めながら縮こまるのを見て、俺は首を横に振る。


「いや、謝る事無いと思うよ。今笑ったのは……何て言うか、仲のいい姉妹みたいだなって思っただけだから」


 俺がそんな風に、思った事を口にすると、詩音が困った様な顔をした。


「まぁ……確かに渚さんは、ちょっとお調子者な姉の様な存在ですね」


 そう言って詩音が見上げた先では、丁度会長が壇上に上がってマイクを手に取っているところだった。



 閉会式の打合せもろくにしなかったように見える会長だったが、そのマイクパフォーマンスはイベント開始時と同じか、それ以上に会場を盛り上げた。


――もしかしたら、生徒会長には人を惹きつける、天性の才能が有るのかもしれない


 そんな事を考えている間にも順位の発表が行われ、10位の生徒の名前とポイントが読み上げられると同時、多くの生徒が落胆の声を上げた。


 だがそれでも彼らが笑顔だったのは、何だかんだで皆がこのイベントを楽しんだからに他ならないだろう。


 幸いにして、俺達3人は無事同着で7位入賞し、食券3千円を手に入れることが出来た。


 なお1位は当然の如く真司だったが、てっきり参加者から明らかな不正に対する非難の一つでも飛ぶかと思ったが――それを制する様に会長が壇上で弄り倒してくれたので、幸い非難の声なども上がる事も無く平穏にイベントは幕を閉じる。


「いやー、つっかれたー! 皆も手伝いありがとうねー」


 イベント終了に合わせて、他の生徒はそのまま去って行ったが、俺たちは真司の事もあり、生徒会の片付けの手伝いをした後に生徒会室へと招き入れられていた。


 当初室内に入った時、校長室か何かかと間違えたか……そう思うほどに立派な生徒会長用の机や来賓用のソファ等に面食らったが、よくよく見回してみれば狸の置物やらパーティゲームやらが置いてある辺り、かなり会長の趣味に侵食されている様に見える。


「全然構わないですよ……それで、真司は一体どんな事を手伝わされるんですか?」


 そう会長に尋ねると、おとがいに手を当てながら、真司の方を猫の様に目を細めて見た。


「その話をする前に、一応浅野君には今回のイベントでどうやって1位を取ったのか教えて欲しいなー」


「……了解っす。協力者から許可は得たんで全部話させてもらいますが……まぁ、自分もパソコンに詳しくは無いんでわからない所もあるんすけど」


 真司はあらかじめそう前置きをした上で、事の顛末を語り出す。


「偶々1週間前に、今回のイベントがアプリを使用するイベントだって話を聞きつけて、冗談半分で協力者にハッキングかけられないか吹っかけたんすよね」


 真司の協力者は元々、企業向けのサーバー(サービスを提供する為のデータが置いてある場所)へのハッキング等を常習的に行なっていたらしく、学園のサーバーへのハッキングは容易に出来たのだと言う。


「あはは……それを聞いたら、今回のアプリを作った皆は凹みそうだなぁ」


「いやぁ、今回は相手が悪かったと思いますよ」


 そんな風に真司が擁護するのを聞いて、俺は隣に座る真司に確認してみる。


「真司はそのハッキングで得た情報を元に、色んな場所を探して回ったって事か?」


「まぁな、正直他の連中がイベントを楽しんでるのを見る内に申し訳ない気持ちになったが……ただ一つ言えるのは、参加者には全ての宝の隠し場所について後から開示して欲しかったかもな。大図書館の隠し場所の一つなんて、すげぇ秀逸だったからさ」


 そう真司が言った所で、俺たち――由香里や詩音は思わず顔を見合わせて笑顔になった。


「そこなら、私達も見つけたよー」


「確かに、あの隠し場所は秀逸でしたね」


 由香里と詩音がそう言うと、今度は真司が目を見開いた。


「お前ら、あそこを自力で見つけたのか……すげぇな」


 そんな風に真司に言われ、思わず笑顔でハイタッチを交わす。


「なるほどねー……まぁ真司君がやった事は褒められたものでは無いけど、私的にはそう言う裏道うらみち的な楽しみ方も、実はありなんじゃ無いかって思ってるんだよねー」

 

 会長がそう言ったのを聞いて、目を見開いてしまうが……もしかしたらそんな表も裏も受け入れる考え方が、この人のカリスマ性の所以の一つなのかもしれない。


「とは言え、何の処分もしないじゃ示しがつかないから、皆にはこの学園で蔓延はびこってる問題に関する調査の手伝いをやってもらおうかな」


 そう俺たちに言った会長の目が、少し険しかった様に見えたのがやけに印象に残った。

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