第36話 最速の男、真司(?)
「……アイツ、なんであんなに自信ありげなんだ?」
耳に何かを付けながら、他の1年生に紛れて全力疾走して行く真司の背中を見てそう呟くと2人も一緒に首を傾げていた。
「校内について詳しいから……とか、そういう感じでも無さそうだよね?」
「なんと言いますか、ご自身の勝利を疑ってなさそうな、不思議な口ぶりでしたね?」
由香里と詩音がそう呟いたので、俺が両手を上げて理解不能だと示していると……背後から大きな声で呼ばれた――詩音が。
「しーちゃーんっ!」
3人で呼ばれた方へと振り返ると、そこには案の定満面の笑みの生徒会長が駆け寄って来たかと思うと、隣でため息をついている詩音に勢い良く抱きついた。
「……渚さん、苦しいです」
「もう、しーちゃんはいつも通りの塩対応だなぁ。まぁそんな所も好きなんだけど」
一層ギューっと抱きしめられた詩音から、助けを求めるような視線を向けられたので、俺はため息を吐きながら会長と向かい合う。
「会長、そろそろ俺たちもイベントに参加しようと思うので、詩音を離してもらって良いですか?」
「おっと、ごめんねー海人君、南雲ちゃん」
そう言って会長が詩音を離すと、詩音が由香里の後ろに隠れた。
「あはは、私は別に良いんですけど……あの、一つ質問なんですけど生徒会のイベントっていつもこんなに凄いんですか?」
「あー、それは俺も気になりました。きっと凄いお金かかってますよね?」
由香里と一緒にそう尋ねると、会長がおとがいに手を当てて首を捻った。
「んー、今回は割と予算的に奮発したのは事実だけど、プログラムとかはゲーム研究部に依頼したから、海人君達が思ってるよりは少ないと思うよ?」
「ウチの学校のゲーム研究部すご……」
俺自身はやったこと無いが、一般のアプリゲームと遜色無い画面を見ながら、思わず呟くと会長が体育館の時計を見た。
「っと、これ以上みんなを引き止めてると運営の子達に怒られちゃいそうだから、私はこの辺でお
そう言って会長が手を振って去った先で、運営の人に小言を言われている姿を垣間見れたが、取り敢えず俺たちもイベントに参加するために体育館の外に出ることにした。
「はぁ……あの人は、本当にもう」
そんな風に詩音はため息を吐いていたが、どこかその姿が楽しげに見えるのは俺の気のせいだろうか。
「さて、そろそろ本当に探さないと真司に離されそうだな……って、えっ!」
「どうかしたの? 海人君?」
なんとはなしにイベントのランキング画面を見て、思わず声を上げた俺を見て由香里と詩音が俺の携帯の画面を覗き込んだ。
「えーっと、1位の方が……もう3個ですか! しかも、これは浅野さん?」
まだ開始5分と経っていないため、2位以下はまだ1個しか見つけていないのに対し、真司だけ既に3個集めてることに驚きを隠せない……しかも、他の生徒は友人達と手分けして探してるのに対し、真司は1人で探してる筈だ。
どうやってそんなにすぐ見つけているのか分からないが、取り敢えずこのままだと真司に高笑いされる気がする……のは、ちょっとムカつく。
「取り敢えず、俺達も頑張って探そうか。マップによると……第1体育館から近い高等部の校舎に20個あるみたいだから、まずはそこから探そう」
アプリ内にある校内マップを確認すると、今回のイベント対象となっている区画が5分割されており、同時に区画内に存在する宝物の数も表示されていた。
「あっ、あそこで皆が校庭の木に向けて携帯掲げてるのってもしかして……」
高等部の校舎に向かっている途中、由香里がそう言って指さした先には、校庭の何の変哲もない木の枝に向かって、数多くの生徒が携帯を掲げいるのが見えた。
俺たちもその姿を見て携帯をかざしてみると……RPGに出てくるような宝箱が木にぶら下がっているのが見えたのでタップしてみる。
すると軽快な電子音と共に、宝箱を一個獲得した旨のテロップが流れた。
「なるほどな、こんな感じで手に入れていくのか……よし、何でか分からないけど凄い勢いで宝箱を集めていく真司を抜かしてやろうぜ!」
そう言って手を突き上げると、由香里と詩音も一緒に手を上げてくれた。
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