第34話 寮での相談事

 授業と部活を終えた俺は、寮に戻って今日の昼あった出来事……昼間会った連中についてそれぞれの椅子に座りながら、真司に相談していた。


 ――特に、今日部活に行って改めて気づいたんだが、文句を言ってきた奴の中の1人が、由香里と同じようにマネージャー志望だった事について


 黙って、俺の話を聞いていた真司が口を開く。


「まさか連中のウチの1人が、陸上部への入部希望者だったなんてな……嫌な偶然もあるもんだな」


「本当にな。初日は居る事に気づけなかったが、今日一日見ていた限りでは由香里が何かされている様子は一応無かったな」


 だが、結局の所俺のみてない所ではどうなってるかは分からないのは、どうしても歯痒さを感じる。


「そもそも、陸上部にはどの位外部組が居るんだ? って言っても、海斗にはわかんねぇか」


 そう真司に言われるが、俺は首を横に振る。


「俺も気になって田原にチラッと聞いてみたら、俺ら以外にも外部組は居るらしい。……だから、そこまで気にしすぎない方がいいとは言われたんだが」


「まぁ、連中とは一回諍いを起こしてるからな、気にするなって方が無理だわな」


 苦笑いしながら真司にそう言われて、黙って頷く。


 もう高校生にもなって露骨に嫌がらせをするなんて……そうは思うが、食堂や前回のカフェテラスでのことを思えば、連中が何をするかなんて分かったもんじゃない。


「まず大前提なんだが、部活全体としてはそう言った差別的な意識は無さそうなんだよな?」


「ああ。まぁまだ2日しか行ってないから、俺が気づいてないだけって可能性はあるが、先輩や同級生も特にそう言った嫌な感じはしなかったな」


 新海先輩をはじめとした先輩達は、部活に不慣れな俺のフォローをしてくれていたし、同級生達も俺のタイムについてからかったりはして来たが、特に嫌味を言ってくる様な奴はいなかった。


「まぁそうなって来ると南雲さん次第な部分は有るけど、表立っては何かされることは無さそうだな。南雲さん、人間関係作るのとか海人より上手そうだし」


 若干おちゃらけた口調で真司がそう言ったので、「一言余計だ」と軽く肩を小突く。


「まぁ、真司の言う通りなんだけど……どうしても気にかかってな」


 頭をかきながらそう言うと、真司が苦笑いする。


「まぁ、お前の心配はわかる気はするんだが……本当ならお前らに喧嘩売る事自体が、どうかしてるんだけどな」


「……ん? どう言うことだ?」


 真司の言っていることの意味が分からず聞き返すと、少し言いづらそうにした後に、ため息をつきつつ口を開く。


「はぁ……まず、海人はウチの学校で有数の家の養子な訳だし、交友関係だってまだ入学して1ヶ月程度とは思えない程広いだろ?」


「……そんなもんか?」


 今ひとつピンとこなくてそう聞き返すと、更にため息をつかれる。


「お前に自覚はないかもしれないが、坂崎家の1人娘の友人で現生徒会長の知り合いとか、マトモな神経してたら関わり合いになりたくねぇよ。めんどクセェ」


「そう言うお前は普通に接してるけどな」


 そう言って笑うと、「俺の事は良いんだよ」と苦笑いされる。


「まっ、何かあったら今言った誰かに泣きつけば何とかしてくれるだろうさ……俺もできる範囲では協力するしよ」


 照れ臭そうに真司に言われて、俺は改めて真司へ感謝した。





 部活内で隠れて由香里が嫌がらせを受けるのでは? そう心配していた俺の考えは、1週間が過ぎる頃には殆ど無くなっていた。


 むしろ由香里の部内での評価は鰻登りで、良く気が利き、社交的な由香里は男女の先輩、同級生問わず人気が高い。


 加えて幸いなことに、俺の方も特にそれらしい嫌がらせを受けていない……ばかりか、新海部長からはこのままタイムが伸びていけば短距離だけでなく、400mリレーで学校代表になれるかもしれないとお墨付きをもらった。


――まぁ、走るフォームに関しては無駄が多いから修正する必要があると言われたけど……


 そんなこんなで、当初の心配をよそに平穏にかつ楽しく部活と授業の両立をしている中で、事前に噂に聞いていた生徒会イベントの日がやって来た。

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