第31話 陸上部への仮入部

 高校生活も3週間目を迎えて、無駄に広い学園にもようやく慣れてきた頃、俺と由香里は2人で陸上部が普段練習に使っている第二グラウンドへと向かっていた。


「そう言えば海人君は陸上のどの種目をやろうと思ってるの? 短距離も長距離も得意だよね?」


「んー、個人的には短距離をやろうかなって考えてるけど、今日適正診断? みたいなのをやるらしいし、それで判断しようと思ってる」


 クラスメイトや詩音から聞いた話だが、なんでも陸上部は毎年新入生に対して各種目の得意不得意を確認するらしい。


 まぁ、その診断結果に従うか否かは本人次第らしいが、従っておいた方が結果は出やすいらしいと言っていた。


「わぁっ、改めて凄い施設だね……」


「そうだな……」


 由香里に同意を示しながら、俺も思わず呆気に取られる。


 まず目を引くのは屋根付きの2階まである観客席と、周囲に設置されたナイター用の照明。


 続いて目を地面に向けてみれば、トラック部分は赤茶けた合成ゴムを使用している他、中央のスペースは芝生になっており投擲とうてき競技などにも対応する様に作られている。


 正直、地方大会レベルの開催会場と比べればよほどこのグラウンドの方が設備が整っているだろう。


 そんな中で各競技のアップをしている先輩達は、どこか楽しげにグラウンドの1画……40名ほど集まった落ち着きのない生徒達のことを見ていた。


「新入生の人はここに集まってくださーい」


 そう言って声を張り上げているのは、部活紹介の時に見かけた男子生徒――髪を刈り上げた陸上部の部長だった。


「新入生のみんなは、あそこに集まっているみたいだね」


 そういって由香里が指さしたグラウンドの端では、既に50人ほどの生徒達が集まっている。


 男子、女子の比率は大体同じくらいだが、由香里の様なマネージャー志望がいると考えると、若干男子の方が選手は多いのかもしれない。


 俺たちがグラウンドに到着してから、10分ほど経ったところで、部長が改めて声をかけた。


「今日のところはこんな所かな? それじゃあ、改めて自己紹介させてもらうけど、僕は3年で陸上部の部長を務めさせてもらっている新海しんかい 隼人はやとです。よろしく」


 そう新海部長が挨拶すると、大きな拍手と黄色い声が上がった。


 一体何事だ? と思って、声の上がった方を見てみれば一部の女生徒が異様に盛り上がっているのが見てとれた。


――そう言えば、新海部長には熱狂的なファンが居るって聞いたような気がするな


 真司からチラッと聞いた程度だが、新海部長は短距離で都大会3位に入るほどの実力ということで、一部熱狂的なファンが居るため、下手に敵を作らない方が良いとかなんとか言っていた気がする。


「今日は軽く新入生の皆の適正を見ておきたいから、自分の得意だと思ったりやりたい種目がある人から僕の所へ種目と仮入部届を提出してほしい。マネージャー希望だったり、種目が決まっていない人は少し待っといてもらっても良いかな?」


 部長がそう言うや否や、直ぐに半数以上の新入生が列をなした。


「取り敢えず、俺も並んでくるわ」


「うん、行ってらっしゃい」


 そう言って由香里と一旦別れを告げ、列へと並んでいく。


 先頭の方では、自分の名前とやりたい種目、競技経験などを問いかけられ、部長の隣に立つ女生徒がメモった上で競技ごとにグラウンド内のどっち側に行くかを指示されていた。


 並び始めて10分ほどしたところで、自分の番が回って来て新海部長から尋ねられる。


「初めまして、名前とやりたい種目を教えてもらえるかな?」


「岩崎 海人です。やりたい種目は短距離です」


「おっ、僕と同じ種目だね。それなら、僕が適正を確認するからちょっと待っててね」


 そう言われた俺は、同じく短距離志望と思われる新入生達と一緒に新海部長の後ろで、全新入生の対応が終わるのを待った。

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