第27話 爺さんへの連絡
部活動紹介の後に寮へ戻って夕飯を食べた俺は、爺さんに由香里の事を聞くため部屋のベランダに出て電話をかけた。
すると3コールもしない内に、爺さんの声がスマホから流れてきた。
「おお、坊主から電話してくるなんて珍しいの」
電話しただけでどこかはずんだ声の爺さんに、少し笑ってしまう。
「ちょっと確認したいことがあってね……爺さん、今時間は大丈夫?」
「ああ、問題ないぞい。ちょうど仕事の話も終わったところじゃしな」
そう声がすると同時、電話越しに椅子へ深く腰掛ける軋み音が聞こえてきた。
以前爺さんは、仕事を半ば引退したと言っていたが、今も絶え間なく人と会っているのを見ると、とても引退しているとは思えない。
「それは良かった。それで、爺さんに確認したいことって言うのは……」
そこまで言って、爺さんにどうやって問いかけようかと考える。
「その……先週末に、俺と由香里で爺さんの所へ行ったじゃん?」
「ああ、来たなぁ。どうせじゃから、詩音も一緒に来ればもっと良かったのにのう」
「それは詩音にも用事があったらしいんだから、しょうがないだろ」
「まぁ、そうなんじゃがなぁ……」
どこかスネた声を出す爺さんに内心溜息をつきながら、話をもとに戻す。
「詩音のことは取り敢えず置いておいて、爺さんがこの間会ったとき、由香里から何か相談されなかった?」
そう問いかけると、電話越しにも関わらず爺さんの雰囲気が変わった気がした。
「む、何でその事をしっとるんじゃ? 嬢ちゃん本人からじゃ無かろう?」
「あー、爺さんと由香里が話してるのをチラッと見かけてね……」
「成程のう……じゃが、人の悩み事を聞き出そうとするのは余りいい趣味とは言えんぞ?」
たしなめる様にやんわりとそう言われて、気まずくなり頬をかく。
「あー、ソレは分かってるんだけどさ、ちょっと気になる事があって……」
そう言って、最近由香里が何かに悩んでいる様に見えることを説明すると、爺さんはしばらく黙った後にうなった。
「なるほどのう。坊主達の事情は分かったが、ワシも嬢ちゃんからあくまで内密にって念を押されたからな、話すことはできんよ」
気まずそうでありながらも、譲る気は無さそうな爺さんの気配に思わず落胆していると、「ただ……」と爺さんが話を続ける。
「ワシからは言うことが出来んが、この際本人から直接聞いてみるのが良いかもしれんぞ」
「いや、そうは言っても本人に聞きにくいから、爺さんに聞いてみたんだけどな」
「まぁそうじゃろうが、ワシの答えは変わらんよ」
そんな風に断られてしまっては、これ以上聞く事もできない。
「わかったよ。明日の放課後にでも、由香里本人に聞いてみることにするよ」
「ああ、そうするとええ……」
そうして、由香里の件についての話を終えた俺は、その後も軽く世間話をした後に部屋へと戻った。
「おー、おつかれー」
ベランダから戻ると、既にジャージ姿でベッドにひっくり返ってスマホを見てる真司がねぎらってくる。
「それで、結局どうゆう状況か分かったのか?」
一瞬スマホから目を離した真司が俺を見てくるが、首を振に降った
「さっぱりわからないから、結局由香里本人に明日にでも聞いてみるよ」
「まっ、結局それがいいのかもなぁ……」
そう言ってスマホを脇に置いた真司が布団にくるまってる間に、メッセージの宛先から由香里を選ぶと、明日の放課後に空き教室で待っていて欲しいと連絡を入れた。
「っと、もう返事来たのか」
わずか数秒の内に返事が来たことに驚きつつ、スマホの画面を見て首を傾げる。
――えっと、心の準備しといた方が良いかな?
心の準備って何の事だ? と一瞬考えるが、悩んでる事を聞き出すのだから準備は必要だろうと思って、「お願いする」と返しておく。
「ふぁーあ、俺そろそろ眠いから先寝るわ」
真司が気の抜けた声を出したのを聞いて、俺もスマホを置いた。
「ああ、俺は今から風呂に入ってくるから、騒がしくしたらゴメン」
そう軽く謝って、自分の着替えなどを準備している間に、真司が寝息を出し始めた。
「毎度の事ながら、凄い寝つきいいな……」
小声でそう言いながらも、真司を起こさないように注意しつつ、寮の大浴場へと向かった。
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