第26話 由香里の悩み事
思っても居なかった詩音と2人での外出はあったものの、特にこれと言った問題も無く週末を終えると、いよいよ授業が本格的に始まり出した。
幸いにして授業から取り残されることも無く、何とか授業に取り組んでいた水曜日の放課後、俺達新入生は部活紹介のために体育館へと集められていた。
「真司は中学時代部活とかやってたのか?」
小声で隣に座る真司へと問いかけると、肩を竦められる。
「いんや、元々バスケ部に入ってたけど途中から幽霊部員だったな」
「バスケ部か……結構合ってそうだけどな」
身長が同級生と比べて頭一つは大きいうえ、まだ回数は少ないが何回かあった体育の授業で見る限り運動神経も人並み以上に良さそうな真司にはあってる気がしてそう呟くと、苦笑いで返された。
「色々あるんだよ、色々な……」
そんな風に意味深に言われ、これ以上聞くのも野暮か……そう思っていた所で、丁度部活紹介が始まった。
部活は何処にでもありそうな、バスケやバドミントン、野球やサッカーを初めとして、空手や柔道と言った武道系、映研や慢研といったサブカル的な物、茶道や生け花と言った和風な物など非常に多岐にわたっている。
他の学校にはなかなか無さそうなハングライダーや馬術には正直、多少心惹かれるものがあったが、俺には入学前から気になっていた部活があった。
「あっ海人君、始まるみたいだよ」
そう由香里に言われて壇上を見てみれば、ジャージ姿の男女がズラッと並んでいた。
「皆さん、初めまして。陸上部部長の竹中です」
そう言って壇上の中心に立つ男子生徒――先輩が話始めると、パラパラと拍手が起こる。
「皆さん陸上と言うとどうしても、辛い、きついイメージをお持ちだと思いますが……」
壇上で先輩が話している内容を聞きながら、ふと気になったことを由香里に聞いてみる。
「そう言えば、由香里はどっかの部活には入らないのか?」
中学時代は俺と同様に帰宅部だった由香里だったが、それもこれも施設にいる弟や妹たちの世話をする為だった。
だが今は、爺さんの支援もありこうして自由な時間が出来た今、由香里も何か部活をやるんだろうか? そう考えて問いかけてみると、由香里が少し困った様な顔になった。
「私は特に今やりたい部活とかは無いかなぁ……強いて言えば」
「強いて言えば?」
「ううん、ごめん気にしないで」
そう聞き返した所で、体育館中で拍手が起こり、正面を見てみれば既に陸上部の発表が終わって、司会の女生徒が次の部活紹介を始めていた。
◇
「そんな話があったんだけど、詩音さんは由香里のやりたいことを何か聞いてたりする?」
部活紹介が終わった後、寮に戻った俺は、由香里がクラスの女子達に呼ばれている間に、詩音と真司にそんな相談を持ち掛けた。
「やりたいこと……ですか、すいません。私は特に伺ってなくて」
そう言われて真司の方を見てみると、両手を上げていた。
「そんなもん、まだ知り合って1週間位の俺が知るわけ無いだろ。てか、幼馴染なら海人が一番そう言うの知ってんじゃないのか?」
「それが分かれば最初から聞いてないって」
若干呆れ気味に真司から言われ……俺自身もそう思うのだが、生憎思いつかないからこうして知恵を出してもらっている状況なのだ。
「そう言えばお前ら先週の土曜日二人で出かけてただろ? その時なんか言ってなかったのか?」
真司がそう言うと、何故か詩音がピクリと反応した。
だが、土曜日にやった事と言えば爺さんと会って、施設に行ったくらいで特に大したことは……そう思った所で、一つの事を思い出す。
「そう言えば由香里が、爺さんに何か相談していたような気がするな」
「おっ、それでビンゴっぽいな」
そう真司が言うと、詩音も暫く考えた後に頷いた。
「あまりご本人が話したくない事を詮索するのは良くないのでしょうが、心配なのであれば一度ご相談されるのが良いかも知れませんね……私も、相談したら気持ちが軽くなりましたし」
「ん? 詩音さんも何か悩み事を抱えてたの?」
そう問いかけると、詩音が顔を赤くしながらワタワタと手を振った。
「えっと……その、私用事を思い出したので失礼しますね!」
そう言って突然立ち上がった詩音にびっくりして、隣の真司に「一体どうしたんだろうか?」と尋ねると、肩をすくめられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます